恐るべき新製品ラッシュ ニコンにキヤノンにAppleまで? 「シネマカメラ」に熱視線のワケ:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
例年秋は新製品ラッシュの時期で、主に新製品レビューを生業とする者にとってはもう9月・10月のスケジュールが入りきれないぐらいの状態になっている。特に今年は映像関係での新製品が多く、何故か今年は各メーカーから集中して発売が予定されている。ここではなぜ今シネマカメラがこんなに注目されるのか、そして今後何が起こるのかという点について考察してみたい。
ゲンロックとタイムコードをサポートする意味
iPhoneのゲンロックとタイムコードのサポートに、どのような意味があるのだろうか。それは、マルチカメラ収録に対応するという意味に他ならない。リテイクのきかないシーン、例えば車が壊れるとか建物を爆破するといった撮影では、複数台のカメラで別々のアングルを狙って撮影する。
この時、カメラの仕込み位置の都合で小さなカメラも必要になるわけだが、iPhoneのような薄いカメラは使い道が多い。これまでは撮影しても、他のカメラとタイミングを合わせるには音声を頼りにしたり、あるいはカチンコのようなものから推し量るしかなかったが、シネマのように24コマや30コマでの撮影では、カメラの撮影タイミングがバラバラだと、厳密にはピッタリ合わない。タイミング合わせはフレーム単位でしか合わせられないので、30コマ撮影の場合は最大で1/30秒の半分、1/60秒ズレる可能性がある。なんで最大が半分なのかというと、半分以上遅れたらもう次のコマにタイミングを合わせた方がマシだからである。
ゲンロックは、このカメラの撮影タイミングを完全に同期させる仕組みだ。アナログ時代は複数の機材を同時に使うためには必須だったが、デジタル時代になってタイミングが自動引き込みになり、ネット中継のようなローバジェットの現場では使われなくなった。
その技術が改めてiPhoneに導入されるということは、iPhoneがお金がない現場の必需品ではなく、ハイバジェットの現場でも使えるようになったという意味になる。
タイムコードの利便性については、ご存じの方も多いだろう。タイムコードは時間的なアドレスなので、全部のカメラに同じ時間を流し込んでいれば、編集時には各クリップが同じ時間上に並ぶ。つまりタイムコードは、編集時の利便性のための仕組みである。従ってライブ配信などのライブイベントでは必要ない。
タイムコードがあればゲンロックはいらないんじゃないかと思われるかもしれない。確かにタイムコードは記録した時間でタイミングを合わせるものではあるが、ゲンロックはそれよりもさらに細かい時間単位、すなわち各カメラによる1コマ1コマの撮影タイミングを合わせるための仕組みである。よってタイムコードを入れただけでは、上記のように1/60秒ズレる可能性は否定できない。
話をまとめると、この9月上旬に発表された映像関係の製品は、ほとんどがシネマを目指しているということである。これは本当にハリウッドクラスのガチ映画から、Web動画やミュージックビデオその他もろもろの映像作品のほとんどが、シネマのワークフローで作られるようになったということの裏返しでもある。
さらに言えば、このワークフローがiPhoneの中だけで完結する可能性も出てきた。9月5日に発表された「Premiere iPhone版」の登場は、撮影から編集、MAまで、iPhone上だけでプロクオリティーのコンテンツが作られる可能性を示唆している。こうして情報を集めてみると、この9月上旬の発表ラッシュがいかに異常であるかがお分かりいただけたかと思う。
ハイエンドシネマカメラはまだまだプロ専用機だが、シネマという表現手法と方法論に関しては、もはやプロとアマチュアの境目は失われつつあるのかもしれない。「何で作ったか」ではなく、「何を作ったか」がよりストイックに評価される時代に入ったのだといえる。
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