AIがWebを要約する時代へ 無料になったパープレのブラウザ「Comet」を試す その可能性と課題とは:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
独禁法違反で売却案が上がっていたGoogleの「Chrome」だが、分割案が棄却される以前、AI検索大手の米Perplexityが、約5兆円でChromeを買収するという提案をしたのも記憶に新しい。もしこの買収が成立していたら、Webのブラウジング体験が大きく変わる可能性があった。その片鱗は、Perplexityが無料で提供するAI対応ブラウザ、「Comet」に見ることができる。
AI検索サマリーに横たわる課題
我々が検索と呼ぶ行為の目的は、知りたいことの回答を得ることである。そのために解決に関係するサイトの記述を確認しているのであって、特定のサイトを見つけ出すことが最終目的ではない。
検索行為にAIエージェントが加わるということは、これまで人間がサイトの記述を確認して回答を得ていたプロセスを飛ばして、ダイレクトに回答を得ることができるということである。たどり着いた先にまた一歩深い疑問が浮かんだり、さらに深い考察が生まれたりするのであれば、思考の深まりまでを最短でたどり着くことができる。これまでサイトの記述から回答を読み取ることが苦手で、そこに多くの時間を取られていた人には、大きな助けとなるだろう。
一方でこうした検索方法が普及していくと、前回のコラムで指摘した課題の他に、さらに懸念される課題が2つあるように思う。
1つ目は、おもに子どもたちに対する影響だ。こうした検索方法に慣れてしまうと、回答とは常に目の前にズバリ提示されるものであり、「答えを探す」「回答にたどり着く」というやり方や考え方が成長できなくなるのではないか。小中学校で実施されている「調べ学習」や「探究の時間」は、こうした能力を育てるためにある。AI検索は、こうした能力の対極にある。回答の探し方を学習中である学生には、あまり使わせたくない手法だ。
ただ否応もなく、普及してしまうだろうなとも思う。人間、面倒なのは大人でも子どもでも嫌いなのだ。
2つ目は、著作権的な処理に関わることである。AIが多くの記事を参照してサマリーを作る場合、読み手は個人であると想定される。この場合のサマリーは、広く公表されるわけでもなく、検索者1人のために毎回新規で生成されるものであるため、考え方としては、私的複製の範囲内として処理できるだろうと思われる。
しかし出来上がったサマリーを広く公開したり、営利目的として使用したりすると、厄介な問題になるだろう。これのソースは著作権を持つニュース記事であり、法的にはおそらく文章特有の「引用」の範疇であるとは解釈されず、「剽窃」あるいは知的財産へのフリーライドと判断される可能性が高いだろう。
前段で述べたように、「サマリーがつまらない」ということも課題ではあるのだが、これはAIが記事の根底に流れる書き手のスタンスを把握して評価する機能、すなわち記事の骨子とも言える「エモ」を理解すれば解決するのではないかと考えられる。何が人を惹きつけるのか、というポイントを解析できるようになるのも、そう遠い話ではないだろう。
もちろんこれには、AIを育てる多くのデータが必要になるわけだが、それは今年から来年にかけて米Amazon EchoにAlexa+が載り、米Google NestにGeminiが載るなどしてより高度な会話が可能な音声アシスタントAIが普及し、人間との接点が増加することで、学習が進むのではないかと予想している。
現時点では、AIエージェント検索はまだ荒削りな技術だ。ブラウザとしても、まだ機能としては少ない。だが現実にもう動いているし、これまでのAIの進化スピードから考えれば、恐るべき速度で洗練されてくるだろう。
とはいえ、湯水のようにAIリソースを消費する機能が、いつまでも無料であるわけはない。これまでの動作では、どこにも広告が表示されていない。つまり、収益モデルがないのだ。ただCometを使用していると、様々なタイミングでCometをデフォルトブラウザに指定するよう求められる。無料で配布されている狙いは、ここにあるのだろう。ある程度普及したところで有料になるか、広告が表示されるようになるのかもしれない。
加えてこのアプローチではほとんど元サイトへアクセスしないので、前回のコラムでも指摘したように、多くの広告モデルで成り立っているサイトは立ち行かなくなる。これが主流になるのであれば、インターネットの世界は「破壊と再生」が余儀なくされるだろう。Cometの無料化は、思った以上にインパクトが大きい。
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