夜に光を多く浴びる人ほど、精神疾患リスク増──光を浴びる時間とメンタルの関係 豪州チームが23年に発表:ちょっと昔のInnovative Tech
オーストラリアのモナシュ大学などに所属する研究者らは2023年、光への曝露パターンと精神疾患の関連が明らかになった研究報告を発表した。
ちょっと昔のInnovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
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オーストラリアのモナシュ大学などに所属する研究者らが2023年にNature Mental Healthで発表した「Day and night light exposure are associated with psychiatric disorders: an objective light study in >85,000 people」は、光への曝露パターンと精神疾患の関連が明らかになった研究報告だ。
研究では、英国バイオバンクの8万6772人(37〜73歳)を対象に実施した。手首装着型の活動量計を用いて約7日間にわたって客観的に測定された光曝露データを活用。ここでは太陽光に限定されず、明るい人工光も含めた総光曝露量を測定している。
分析した結果、夜間の明るい光への曝露が精神疾患のリスク増加と関連し、逆に日中の明るい光への曝露がリスク低下と関連することを示した。また日中に明るい光を浴びる量が多いほど、精神健康への効果が大きいことも分かった。
具体的には、夜間の光曝露が最も高い群は最も低い群と比較して、大うつ病性障害のリスクが約30%高く、自傷行為や全般性不安障害、PTSD、精神病体験(幻聴や妄想など)のリスクも増加していた。双極性障害についても、最も明るい夜間光曝露群でリスクの増加を観察した。一方、日中の光曝露が最も高い群では、大うつ病性障害のリスクが約20%低下し、自傷行為、PTSD、精神病体験のリスクも低下していた。
これらの関連は、年齢や性別、民族性、日照時間、雇用状態、身体活動量などの交絡因子を調整した後も維持された。
概日リズムの観点から見ると、これらの結果は理にかなっている。光は概日時計への主要な入力信号であり、日中の光はリズムを強化し、夜間の光はリズムを弱める。現代人は屋内で過ごす時間が約90%であり、進化の過程で経験してきた自然な明暗サイクルとは大きく異なる光環境に置かれている。
日中は薄暗く、夜間は明るいという現代的な光パターンは、概日リズムの振幅を低下させ、脳と身体全体のリズムの乱れを引き起こす可能性がある。
Source and Image Credits: Burns, A.C., Windred, D.P., Rutter, M.K. et al. Day and night light exposure are associated with psychiatric disorders: an objective light study in >85,000 people. Nat. Mental Health 1, 853–862(2023). https://doi.org/10.1038/s44220-023-00135-8
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