イーロン・マスク氏の「150兆円規模」の報酬案、テスラ株主が承認
米Teslaのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は6日(現地時間)、史上最大となる企業報酬パッケージについて株主の承認を得た。EV(電気自動車)メーカーであるTeslaをAIとロボット工学の巨人へと変貌させるという同氏のビジョンを、投資家が支持した形だ。
米Teslaのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は6日(現地時間)、史上最大となる企業報酬パッケージについて株主の承認を得た。EV(電気自動車)メーカーであるTeslaをAIとロボット工学の巨人へと変貌させるという同氏のビジョンを、投資家が支持した形だ。
提案は75%以上の支持を得て承認された。マスク氏は、テキサス州オースティンの工場で開催された年次株主総会のステージに、ダンスをするロボットを伴って勢いよく登壇した。
すでに世界一の富豪であるマスク氏は、今後10年間で最大1兆ドル相当の株式を取得できる可能性があるが、必要な支払いを差し引くと価値は8780億ドルになる。
この採決は、Teslaの将来と企業価値にとって極めて重要だ。同社の価値は、自動運転車両の製造、米国全土でのロボタクシーネットワークの構築、ヒューマノイドロボットの販売というマスク氏のビジョンにかかっている。同氏の極右的な政治的発言が今年Teslaのブランドを傷つけたにもかかわらず、である。
取締役会は、この報酬パッケージが得られなければマスク氏が退任する可能性があると警告していた。一部の投資家は「非常に高額で不要」だと述べたが、多くはこれをマスク氏を引き留める手段とみなし、パッケージに設定された目標により株主も利益を得られると考えている。
「われわれがこれから着手するのは、Teslaの未来の単なる新章ではなく、まったく新しい本だ」とマスク氏は歓声を上げる株主らに語った。
その後、マスク氏はステージ上で次々と約束を口にした。4月にはハンドルなしの2人乗りロボタクシー「サイバーキャブ」の生産を開始することから、次世代の電動スポーツカー「ロードスター」の発表まで。また、TeslaはAIチップを製造するために「巨大なチップ工場」を必要とし、インテルとの協力を検討すべきだとも述べた。
株主らはまた、Tesla取締役会の3人の取締役を再任し、全取締役の年次選挙に賛成票を投じ、裁判で係争中のマスク氏の以前の報酬パッケージに代わる新たなプランを承認した。
「他の株主総会は退屈で眠くなるようなものだが、われわれのは最高だ」とマスク氏は語った。「これを見てほしい。すごいだろう」
株主らは、Teslaがマスク氏の人工知能スタートアップ「xAI」への投資を行うことに賛成票を投じたが、棄権も多かった。戦略・ガバナンス諮問会社ロングエーカー・スクエアのパートナーであるジェシカ・マクドゥーガル氏は、これは取締役会によるより強力な監視なしにこの取り決めを容認することへの、大口投資家のためらいを反映している可能性があると述べた。
同氏によると、多くの投資家は「事業の過度な混在がないことを確実にするためのガードレール(安全策)が設けられているという保証と確信を、取締役会に求めている」だろうという。
マスク氏の勝利は広く予想されていた。同社がデラウェア州からテキサス州に移転したあと、自身が約15%保有する持ち株を投票に使用することが認められたためだ。マスク氏の影響力を除外すると、賛成多数ではあるものの、その差はわずかであり、一般的な企業であれば取締役会がCEO報酬の見直しを検討するレベルだったと、株主諮問会社ジャスパー・ストリート・パートナーズのCEO、ジェシカ・ストライン氏は述べた。Teslaでは「現実的にそのような見直しは行われないだろう」と同氏は語った。
ノルウェーの政府系ファンド(SWF)のほか、議決権行使助言会社のグラス・ルイスやISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシズ)など、一部の主要投資家は同案に反対していた。
この採決により、マスク氏の関心がロケットメーカーのSpaceXやxAIといった他社の経営に移ってしまうのではないかという投資家の懸念は和らいだ。
取締役会と支持を表明した多くの投資家は、マスク氏が報酬を得るためにはTeslaが一連のマイルストーン(節目)を達成する必要があるため、この記録的な報酬パッケージは長期的には株主の利益になると述べている。
「これらの株式報酬のトランシェ(段階的な付与)が完了すれば、Teslaの収益成長の大幅な改善に続くものとなる」と、ザックス・インベストメント・マネジメントのシニアクライアント・ポートフォリオ・マネジャー、ブライアン・マルベリー氏は述べた。
「その成長が希薄化の懸念を相殺するのか、あるいは、これは単にAIの未来を形作るのに十分な影響力を持ちたいというイーロンの願いを叶えるだけなのか? それはまだ分からない」
マスク氏の今後10年間の目標には、2000万台の車両納入、100万台のロボタクシーの運用、100万体のロボット販売、最大4000億ドルの中核利益の達成が含まれる。しかし、報酬を得るためには、Teslaの株式価値も連動して上昇する必要があり、現在の1兆5000億ドルからまず2兆ドルへ、最終的には8兆5000億ドルまで達しなければならない。
各ステップ(事業目標と企業価値のマイルストーン)を達成するごとに、マスク氏は株式の1%を獲得する。つまり、野心的な目標のほとんどを達成できなくても、このプランはマスク氏に数百億ドルをもたらす可能性がある。
マスク氏が全ての目標を達成すれば、株式の12%、つまり約1兆ドル相当を受け取る資格を得る。
これらの株式の純価値は8780億ドルとなる。このパッケージは、取締役会が9月初旬に提案を可決した日の株式価値を除外する構造になっている。マスク氏は、その金額を現金で支払うか、元の価値を考慮してより少ない株式を受け取るかのいずれかを選択できる。
パッケージの価値は株価の変動に基づいて変動するため、常に変動する目標となる。
マスク氏は、「ロボット軍団」の販売に向けて準備を進める中、報酬パッケージの一環としてTeslaでより高い議決権を得ることに、金銭以上の関心があると述べている。

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