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「これ以上高い解像度の画面はいらない」 人間の眼は何ピクセルまで見分けられるか? 海外チームが発表Innovative Tech

英ケンブリッジ大学と米Metaに所属する研究者らは、人間の目はどこまで解像度を見分けられるのかという限界値、いわゆる「網膜解像度」が、従来信じられていたよりも高いことを明らかにした研究報告を発表した。

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Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

X: @shiropen2

 英ケンブリッジ大学と米Metaに所属する研究者らがNature Communications誌で発表した論文「Resolution limit of the eye - how many pixels can we see?」は、人間の目はどこまで解像度を見分けられるのかという限界値、いわゆる「網膜解像度」が、従来信じられていたよりも高いことを明らかにした研究報告だ。


きれいなディスプレイを見ている人のイラスト(絵:おね

 人間の眼がどれだけ細かいものまで見分けられるかという問題は、ディスプレイ技術の発展にとって根本的な問いである。これまで視力検査の基準として使われてきた「20/20視力」(日本でいう1.0と同等)は、人間の眼が見分けられる最小の角度は1分角、つまり1度当たり60ppd程度まで識別できることを示している。

 この数値は長年にわたって「網膜解像度」の基準とされ、高精細ディスプレイの設計指標となってきた。第7世代Apple iPad Pro(2024、13インチ)が搭載しているUltra Retina XDRディスプレイは、快適な最短視聴距離の35cmから見ると、実効解像度が65ppdだ。

 研究チームは、4Kディスプレイをレール上に設置し、モーターで前後に動かすことで、観察者から見た解像度を連続的に変化させる実験装置を開発。18人の参加者に縞模様の白黒パターンを見せ、どこまで細かい模様を識別できるか測定した。白黒だけでなく、赤緑、黄紫という色の組み合わせでも解像度限界を測定した。


実験のセットアップ

 実験の結果、白黒パターンで視力の中心部分での解像度限界が1度当たり94ppdに達し、個人差はあるものの最大で120ピクセルまで識別できる人もいることが判明した。これまでの基準である60ppd〜65ppdを上回る数値だ。

 カラーの結果も示された。赤と緑の組み合わせでは1度当たり89ppdと、白黒に近い解像度まで識別できた。一方、黄と紫の組み合わせでは53ppdまで低下した。

 この結果は、現在の画像・動画圧縮技術の前提に疑問を投げかける。JPEGやH.265といった圧縮方式では、色情報は白黒情報の半分の解像度で十分という仮定のもと、データ量を削減している。しかし少なくとも赤緑については、この仮定が成り立たないことが明らかになった。

 さらに、中心窩から離れた周辺視野(10度と20度)における解像度限界も測定。予想通り、解像度は中心から離れるにつれて急激に低下した。注目すべきは、その低下率が色によって大きく異なる点である。白黒の解像度が10度の周辺視野で2.3倍低下するのに対し、赤緑は4.9倍、黄紫は4.8倍と、色解像度の低下が著しく大きかった。

 これらのデータを基にして実用的なモデルを構築した。例えば8Kテレビの場合、画面の高さの1.3倍の距離から見れば、それ以上離れても画質の違いはほとんど認識できないことを示した。これは、画面の高さの1.3倍より近い距離でなければ8K解像度の恩恵は得られない(4K解像度と違いがほとんど分からない)ことになる。なお、ITU(国際電気通信連合)は、8K解像度の場合、画面高さの0.8〜3.2倍を提案している。

 研究チームは、ディスプレイのサイズ、解像度、視聴距離などのパラメータを入力すると、網膜に投影される画像の実効解像度(ppd)を計算し、人間の眼の解像度限界と比較できる計算機ツールをブラウザ上で公開している。

Source and Image Credits: Ashraf, M., Chapiro, A. & Mantiuk, R.K. Resolution limit of the eye - how many pixels can we see?. Nat Commun 16, 9086(2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-64679-2



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