ワンタッチで「近く」と「遠く」を切替できるメガネ 電子制御で度数が変わる液晶レンズ 台湾チームが開発:Innovative Tech
台湾の国立陽明交通大学や、台湾の液晶パネルメーカーのInnoluxなどに所属する研究者らは、テンプルにあるボタン1つの電子制御で度数が変わる遠近両用メガネを提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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台湾の国立陽明交通大学や、台湾の液晶パネルメーカーのInnoluxなどに所属する研究者らが発表した論文「Polarization-independent electronically tunable liquid-crystal spectacles」は、テンプルにあるボタン1つの電子制御で度数が変わる遠近両用メガネを提案した研究報告だ。
現在広く使われている累進レンズは、レンズの上部で遠くを、下部で近くを見る構造になっている。しかし、見たい距離に応じて視線を上下に動かす必要があり、慣れるまでに時間がかかる上、めまいや不快感を覚える人も少なくない。今回開発の液晶メガネは、ボタン一つでレンズ全体の度数を電気的に変更できるため、こうした問題を解決する。
液晶レンズの原理は、電圧により液晶分子の向きを制御し、光の進む速度を変化させることにある。レンズの中心部と周辺部で異なる電場をかけることで、通常の凸レンズや凹レンズと同じような光の屈折を生み出す。従来の液晶レンズでは、微細な階段状の構造による光の回折が画質を劣化させていたが、今回開発した「GRINレンズ」は、屈折率を連続的に変化させることで、クリアな像を実現している。
技術的な課題だった偏光の問題も解決した。液晶は特定の方向に振動する光にしか反応しない性質があるが、研究チームは2枚の液晶層を直角に重ねることで、あらゆる光に対応できるようにした。この設計により、偏光板を必要とせず、自然光下での使用が可能となった。
性能面では、+1Dから-1Dまでの度数で連続的に調整可能で、その範囲で老眼や近視に対応できる。動作電圧は4V以下と低く、消費電力も少ない。度数の切り替えには現在5〜30秒かかるが、電気的な制御方法の改良により、さらに高速化できる見込みである。
透過率は約55%で、通常のメガネより暗いものの、実用上問題ないレベル。現在の有効開口径は10mmと人間の中心視野をカバーするには十分だが、より広い範囲に対応するための技術開発も進められている。
レンズの全厚は約1.7mm、重量は10gと、通常のメガネフレームに組み込むことが可能な仕様となっている。メガネフレーム右側のつるに充電式リチウムバッテリー充電ポートなどが、左側に制御回路基板を配置し、タッチセンサーで度数を切り替える構造だ。
この研究において、標準的な液晶ディスプレイ製造技術を活用し、630×720mmの基板から36個のレンズを同時に製造できることを示した。これは大量生産への実現可能性を示唆している。
今回の技術はメガネとしての用途だけでなく、ロボットの視覚システムやARゴーグルなど、さまざまな分野への応用が期待される。
Source and Image Credits: Lin, Y.-H., Huang, H.-H., Cheng, W.-C., Reshetnyak, V., Huang, T.-W., Cheng, C.-C., Jao, M.-W., Lin, C.-L., Tsou, Y.-S., Wu, Y.-H., & Yang, C.-L.(2025). Polarization-independent electronically tunable liquid-crystal spectacles. Physical Review Applied, 24(2), 024071. https://doi.org/10.1103/3m2d-k24l
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