「この人誰?」「前に何話したっけ?」を解決──対話中、前回の会話内容を呼び出すAI搭載ARメガネ:Innovative Tech(AI+)
中国の清華大学に所属する研究者らは、ARグラスと大規模言語モデル(LLM)を活用した記憶拡張システムを提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech(AI+):
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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中国の清華大学に所属する研究者らが発表した論文「AR Secretary Agent: Real-time Memory Augmentation via LLM-powered Augmented Reality Glasses」は、ARグラスと大規模言語モデル(LLM)を活用した記憶拡張システムを提案した研究報告だ。
日々多数の人々と接触し、その全てを詳細に記憶することは困難だ。この人は誰だったか、前回何について話したか、といった情報の想起は、ビジネスの現場において重要でありながら、人間の記憶力の限界により困難を伴うことが多い。
今回開発したシステムは、コンピュータビジョン技術による顔認識機能と、音声録音・文字起こし機能、GPT-4による自動要約機能を統合している。
ユーザーがARグラスを装着して会話を行う際、システムは相手の顔を認識し、過去の会話内容の要約をARグラスのディスプレイに表示する。この一連の処理は、Bluetoothで接続されたスマートリングを通じて制御し、目立たない形で実行する。
技術的な実装において、システムはINMO AIR 2グラスとINMO Ring 2を基盤として構築。音声処理では、30秒間隔で分割した音声データをWhisperで文字起こしし、OpenAIのAPIを通じてGPT-4が要約を生成する。画像処理では、顔認識ライブラリを使用して128次元の特徴を抽出し、サポートベクターマシン(SVM)で既知の顔との照合を行う。
実験では12人の参加者を対象に、情報密度の高い4つの会話を通じて、短期記憶と長期記憶の両方を評価した。特に長期記憶については、3〜4日後に、参加者には事前の通知なく、以前に会った4人の話者の中からランダムに選ばれた2人の名前と会話内容を思い出してもらうよう求めた。この記憶想起の際に、参加者にはARグラスが生成した1〜2文の短い要約を提供した。
参加者は従来のメモ取り方法と比較して、今回のARグラスを使用した場合に最大20%の記憶向上を示した。特に長期記憶においては、3日後の記憶テストでも統計的に有意な改善を確認した。
Source and Image Credits: Haddad, Raphael A. El, et al. “AR Secretary Agent: Real-time Memory Augmentation via LLM-powered Augmented Reality Glasses.” arXiv preprint arXiv:2505.11888(2025).
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