破天荒アニメが“教材”に? 「邪神ちゃん×大学」の異色コラボにみる、中堅IPの生存戦略:まつもとあつしの「アニメノミライ」(4/4 ページ)
破天荒ギャグアニメ『邪神ちゃんドロップキック』が、大学のSNSリテラシー教材になった。意外な組み合わせだが、共栄大学の伊藤准教授と宣伝プロデューサーの柳瀬氏(柳は異字体が正式表記)に取材すると、中堅IPの生存戦略と、アニメ業界が抱える構造的課題が見えてきた。製作委員会システムの「合理化」が進む中、さざ波も起きない状況をどう打破するのか。異色コラボの舞台裏を聞いた。
プロデューサーは「顔」を出してリスクを背負え
──伊藤先生も、もともとは鉄道という「リスク排除」が最優先の業界におられましたが、今回は個人としてリスクを取って動かれていますね
伊藤:リスクを排除しすぎると面白くなくなりますからね。もちろん教育者として質と安全性は担保しますが、自分が「面白い」と思えるかどうかを原動力にしています。もし何かあっても、なんとかなる範囲で新しいことに挑戦したいんです。
まさに今回の邪神ちゃんとのコラボは、リスクと面白さをてんびんに掛けた時に、面白さが上回ったんですよ。柳瀬さんが先ほど仰った通り「ある意味で適切、ある意味で不適切」ですからね。「邪神ちゃんから何を学ぶんだよ!」と思っていただければ、それだけで面白いじゃないですか(笑)。
──柳瀬さんは常々、「プロデューサーは顔を出すべきだ」と仰っています。それもこの「リスク」の話につながるのでしょうか
柳瀬:大企業では「属人リスク」が嫌われます。属人リスクとは、特定の業務が特定の担当者しか遂行できない状態になってしまうリスクですね。アニメ業界も最近はすっかりホワイト化してきたので、この作品はこのプロデューサーにしかできない、という状態にしたくないのはよく分かります。
しかし一方で、監督さんや声優さんは常に名前が世に出た状態で働いている。そこには常にリスクがつきまとっているわけです。なのになぜプロデューサーだけが安全圏にいていいのか。
何より、それだとプロデューサー自身が「労働の喜び」を感じられないのではないでしょうか。匿名のままシステムの一部として働いて、成果が出ても自分がやったと思えない。こんなに過酷なエンタメの世界に自分から志願してきたのは、みんなを喜ばせることで自分も喜びたかったからではなかったのか。
「パチサバト」による襲撃? 今後の展開
──最後に、今後の『邪神ちゃん』の展開について教えてください。教育の次はどこへ向かうのでしょうか
柳瀬:大手の三洋物産(SANYO)さんで念願のパチスロ化が決まりました!
遊技機化が決まるとファンから「作品の魂を売りやがって!」と批判されることがあるそうなんですが、邪神ちゃんも原作者のユキヲ先生もパチ大好きなのでむしろ祝福されています。また、版元さんによっては「うちの作品の世界観を損なう」と距離を置くことがあるようですが、邪神ちゃんの製作委員会は「パチスロにしてくれて本当にありがとうございます!」とむしろ擦り寄っていきます。
あんまりこういう作品、ないんですって! ですから今度邪教徒(邪神ちゃんファン)の皆さんを連れてサンヨーさんの本社を襲撃しにいこうと思っています。「どこよりも早く試打させるんですのー!」って。
──襲撃、ですか(笑)
他の作品では絶対やらないらしく、そういう施策も面白がってもらっています。こうした「差異化」された宣伝こそが、中堅IPが生き残るための唯一の道だと信じています。
伊藤:私は引き続き「エデュテインメント」の可能性を広げていきたいですね。
東武鉄道さんとも組んで、新型特急「スペーシアX」をVR撮影し、列車内を疑似体験できるコンテンツ制作なども行っています。先日のイベントでは最大80分待ちになるほど多くの方に楽しんでいただきました(笑)。こうしたエンターテインメントの力を結び付けることで、新しい価値や体験を生み出せると感じています。
そしてアニメや鉄道、さらにはアイドルなど、人々を引きつけるコンテンツには計り知れない力があります。その力を学びの入り口として生かすことで、教育をもっと面白く、ワクワクするものにしていきたい。驚きや楽しさがあるからこそ、行動や意識が変わると考えています。これからも、そんな「面白い学び」を生み出し続けたいと思っています。
松本 淳(まつもと あつし)
ジャーナリスト・研究者。ITベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は専修大学文学部特任教授。NPO法人アニメ産業イノベーション会議理事長。コンテンツビジネスと地域活性化、ITの活用などをテーマに取材・執筆を行う。
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