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“次の一手”を見つけるために 東京都の景況指標ダッシュボードが意外に役立つ理由中小企業にはハードルが高いデータ活用

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 「いま、営業ターゲットとして最も有望な業種はどこだろう?」

 「仕入れ単価の変動をいち早く予測して、コスト戦略を見直したい」

 「なんとなくの肌感覚ではなく、データで店舗の売り上げ予測の精度を高めたい」

 ビジネスを展開する多くの企業にとって、こうした課題は日々直面する重要なテーマだ。しかし、マクロな経済データや景況感の指標は難解で、必要な情報を集めるのは手間がかかる。質問するだけで答えてくれる生成AIというツールは登場したが、求める答えを引き出すには一定の知識が求められ、そもそもAIが誤った回答を出すリスクもある。データ活用の第一歩として、ハードルが高いと感じる人もいるだろう。

 そこで、東京都で事業を展開する企業にとって有用なのが「都内中小企業の景況指標ダッシュボード」だ。東京都のWebサイトであることを意外に思う人も多いだろうが、実は「景況感」「人流」「消費」というマクロな視点からの裏付けを手っ取り早く得るためのツールとして注目されている。

 特長はアクセスの容易さだ。会員登録や利用料は不要で、誰でも無料ですぐに利用できる。データを活用する「最初の第一歩」として適している点と言える。

 このダッシュボードをどのように使えばよいのか。東京都と共に運営に携わるナウキャストの担当者に話を聞いた。

東京都の景気動向が一目で分かる「都内中小企業の景況指標ダッシュボード」

https://www.keikyou-dashboard.metro.tokyo.lg.jp

攻めの営業戦略:「伸びている業種」をデータで選定する

 ダッシュボードの中核が「業況DI(ディフュージョンインデックス)」だ。都内の中小企業3875社にアンケートを実施した結果を可視化して、景気動向に対する「実感」を反映している。ナウキャストは基本的な使い方をこう説明する。

 「経営層や営業企画などのマネジャー層に役立つのが、業種の勢いを可視化するという使い方です。業況DIのグラフは、複数の業種を見比べられるようになっています。全体の業況と比較して、特定の業種がいま伸びているのかどうかを見極められます」

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業況DIのグラフ。左側のチェックボックスで選ぶだけで項目を比較できる(提供:東京都)《クリックで拡大》

 営業戦略の立案においては、どの業種や地域にリソースを集中するかという判断が頻繁に求められる。業況DIは製造業や卸売業、小売業、サービス業の中区分、各業種を詳細化した小区分も用意されており、目的に合ったレイヤーで比較できる。営業が「集中的にアプローチすべきターゲット業種」を選定する際の客観的な根拠になる。

 市場全体の業況DIと比較して、営業見通しや事業計画が「楽観的過ぎないか」「悲観的過ぎないか」を判断し、調整するための補助指標としても利用できる。データは毎月更新される。月1回確認して計画を調整する程度ならば負担は少ないだろう。

独自データ「人流」で探る地域動向

 ダッシュボードのデータの中で、特に独自性が高いのが「人流データ」だ。ナウキャストは「人流データのベースはKDDIの通信データです。基地局へのアクセスを基に各地点の人流の変化を可視化しています。データの正確性を高めるため、KDDI以外の携帯ユーザーを考慮して携帯シェア、性別、年代の偏りを補正している点も特徴です」と説明する。

 調査対象は池袋駅、銀座駅、立川駅など都内10カ所。データの変化を週次で追跡しているため、地域のイベントのような一時的な変化も把握しやすい。

 「小売業やサービス業が新規出店する場所を選定する指標となり、特定エリアへのマーケティングリソースの集中が適正かどうかを判断する材料にもなります。どの時期に人流が増減するかといった、その場所ならではの季節変動を把握するのにも役立ちます」

 小売業であれば季節変動を参考に、人員配置や在庫管理の効率化にも使える。人流が増えても販売数の増加幅が少ない商品を特定し、商品陳列を見直すという使い方もあるという。

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「人流データ」で都内10駅の人流の増減を可視化(提供:東京都)《クリックで拡大》

守りのコスト戦略と売り上げ予測の精度向上にも役立つ

 景況指標は、コスト管理やリスク管理といった「守り」の経営戦略においても有効な示唆を与えてくれる。そこで役立つのが「販売単価DI」と「仕入れ単価DI」だ。

 「ダッシュボードでは販売単価DIと仕入れ単価DIの推移を並べて比較できます。一般に、仕入れ単価の変化が先行し、そこに販売単価が追随する動きが見られるものです。その予兆をつかむ指標としても役立ちます」

 仕入れコストの変動は利益率に直結するだけに、普段から気を配りたい。ダッシュボードをチェックすることで、業界における仕入れ単価の直近の動きを察知して、今後の販売単価への影響や仕入れ時期の見直しの判断材料にできそうだ。

 これらのグラフは業況DIとは別の「その他の景況指標」から見られるが、業況DIと合わせて表示させることも可能だ。比較したい期間もグラフ下部で調整できる。条件を変えるのが容易で、気になった点をグラフですぐに確認できるのはありがたい。

高品質の「決済データ」で消費動向をつかむ

 消費動向を見たいなら「決済データ」がある。これは、JCBのクレジットカード決済データを利用して消費の変化をグラフ化したものだ。東京都を住所とするカード会員や利用加盟店のデータに絞って都内の消費動向にフォーカスしており、月次でデータが更新されている。本来は有償で提供されている高品質なデータを、グラフィカルに確認できる点が魅力だ。なお、前述の人流データともども個人情報は収集していない。

 最も分かりやすい活用法は、決済データを自社の売上高や顧客単価といった企業内部のデータと比較することだ。これにより、マクロな市場の動きが、自社のパフォーマンスにどれだけ影響を与えているかを定量的に理解できる。自社の経営計画が市場の動きと懸け離れていないかどうかをチェックする助けになるだろう。

 人流データと組み合わせることで、自社店舗の売り上げや顧客単価との相関関係を検証するという使い方も考えられる。

 「決済データはデータ活用の入り口として適している項目です。業況DIは項目が多いため、データ活用に不慣れな方にとっては『何から見たらよいか分からない』と迷うことが多いようです。対して決済データは消費の動向が一目で分かるため、自分が普段見ている会社の数字と見比べるなど、データ活用の最初の一歩として利用するのをお勧めします」

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「決済データ」では小売業やサービス業のより細かな業種ごとのデータも確認可能だ(提供:東京都)《クリックで拡大》

トランプ関税などの世界的な変化の影響分析も掲載

 東京都にとどまらない大きな変化の影響を見極めるツールとしても役立つという。例えば、2025年の前半を騒がせたトランプ関税だ。

 業況DIによる景況感を見ると、発動直後の数カ月に大きな変化は見られなかった。新型コロナ禍のDIでは、主要4業種で大幅な落ち込みが見られたことと比べると、その違いは明らかだ。

 業種区分ごとのDIも見比べると、製造業で電気機器や紙・印刷、材料・部品などの区分が比較的底堅い動きを示していた。当時はトランプ政権による関税措置の公表を受けて円高が進行し、商品市況の下落も進んでいた。円高・資源安がこれらの区分のコスト環境を改善する要因になったと考えられる。このような影響についてもダッシュボードの販売単価DIと仕入れ単価DIで確認可能だ。

 この使い方は、ダッシュボードの活用方法を解説するコラム記事で紹介されている。エコノミストや中小企業診断士による専門的な解説も複数あるので、データ活用のレベルアップに役立つだろう。

さらに便利になるダッシュボード

 ダッシュボードは東京都が抱える「都政の課題解決」を目指すピッチイベントで、ナウキャストが提案して構築された。東京都が中小企業の活性化に課題意識を持っており、2022年度に構築され、2023年度に運用がスタートした。

 ナウキャストは、ツールの一番の強みを「複数のデータを行き来しながらすぐ見られる点にある」と語る。これまでも東京都は統計データを公開しているが、それを分析するハードルは高い。一方でダッシュボードは、グラフで視覚的に分かりやすいだけでなく、チェックボックスによる切り替え機能もあり、データの比較検討が容易だ。決済・人流データ以外はCSV形式でダウンロードできるので自社のデータとも比較しやすいなど、使い勝手にこだわっている。今後もデータを追加するなど、機能をアップデートしていく予定だ。

 東京都の景況指標ダッシュボードはこれからも進化し続ける。データ活用に不慣れな企業こそ、まずグラフで景況感を理解して自社の“肌感覚”を客観的なデータで検証することから始めてみてはどうだろうか。

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提供:東京都
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2026年2月16日

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