スマホ全盛期に、なぜ“小さなカメラ”か――5940円のトイカメラでよみがえった撮影の楽しさ:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
スマホがあればいつでも写真が撮れる――そう思いつつ、いつの間にか街でカメラを構えなくなった人は多いのではないか。5940円のトイカメラとの出会いが、筆者に気づかせた「写真を撮る楽しみ」の本質。手のひらに収まる小さなカメラが、失われた撮影へのモチベーションを取り戻す鍵になるかもしれない。
街とセッションするカメラが必要なのではないか
本稿は何も、トイカメラ最高という話をしたいわけではない。「OPT NeoFilm100」で撮った写真を見ながら思うのは、周囲の人に写真を撮ってると思われない、さりげない小さいカメラは需要があるのではないか、という話である。
観光地でも街中でもいいのだが、誰かがスマホを持って構えていると、なんとなく邪魔だなとか、そこに映りたくないという気持ちが働くものだ。大型一眼カメラならなおさらで、この人はこんなところで何を撮ってるんだろうと、周囲の目が集まる。これは撮っている側も、何か良くないことをしているのではないかと、居心地が悪くなる。
だが「OPT NeoFilm100」を構えても、誰も気にしない。そもそもカメラではなくフィルムに見えるわけだが、かといって若い人からすればフィルムも見たことがない人も多いだろうから、馴染みのある形でもないはずだ。おそらくこれは、スマホやミラーレスを構えてさあ写真を撮るぞぉ撮ってやるぞぉという一般的な姿勢から、かけ離れているからではないか。
撮影者側にしても、手の中に握れてしまうぐらいのカメラというのは、実に機動性が高い。液晶画面が小さくてアングルは見えづらいが、スナップはそんなにきっちり構図を決めなくても、だいたい写っていればいいのだ。
「OPT NeoFilm100」はシャレが効いてるトイカメラだが、カメラメーカーの今の技術を持ってすれば、これぐらいのサイズでちゃんとした絵が撮れるカメラは作れるだろう。
それに一番近いポジションにいるのは、アクション系カメラである。以前はGoProスタイルのカメラが主流であったが、昨今はカメラ部が合体分離してさらに小さくなるカメラが台頭してきている。
筆者も中国DJIのAction2を所有しており、カメラ部だけなら手の中に握れるほど小さい。これで写真を撮ろうとしたが、しっくりこなかった。35mm判換算で12.7mmは、いくらなんでも画角がワイドすぎる。全体の状況を撮るみたいな記録や、巨大なものを近くで撮る場合には有効だが、街撮りでは何を狙って撮ったのか全然わからない。つまりテーマ性が持てないのだ。
その点では、ソニーの「RX0」は実に先見の明があったと思う。35mm換算24mmという画角は街撮りにはまだちょっと広いが、電子手ブレ補正を入れていけば28mmから32mmぐらいになってちょうどいい。ただ残念なことに、2019年の「RX0 II」以降後継機種が出ていない。それでもニーズは爆発しており、発売当初は実売8万5000円ぐらいだったものが、現在は12万円ほどに高騰している。中には20万円と強気の値段を付けるECサイトもある。やはりみんな、極小の単焦点カメラが欲しいのだ。
こうしたニーズがワールドワイドでも存在するのかわからないが、中国DJIや中国Insta360が気づいていないのであれば、日本のカメラメーカーに勝機がある。かつて日本のカメラメーカーは、2012年頃から米GoProの後追いでアクションカメラに参入したが、2016〜2019年頃に商機なしとして次々に撤退した。だが小さいカメラが作れる技術は残っている。当時はかなり無理してワイドレンズを搭載していたが、28〜32mmぐらいのレンズを搭載するのは難しくはないだろう。
今写真を撮るということは、ネットに公開することと同義になってしまっている。だが写真の歴史から考えれば、誰でも写真がばら撒けるようになったのはここ15年ぐらいの話である。
いいシーンを見つけてパッと撮る。それだけ。そうした楽しみを叶えるのは、フィルム時代からレンズ交換式よりももっと小さいカメラが得意としたところだ。
コンパクトデジカメ黎明期には、フィルムの縛りがなくなったことから様々なサイズや形状が存在したが、次第にフィルム時代のコンパクトカメラぐらいのサイズ感に収斂していった。だがそうした「形にはまった」ことが、急速に新鮮さを失わせる結果となったのではないだろうか。
サイズや形状も含め、今は「標準外のカメラ」が求められているようだ。様々なトイカメラの好調さがそれを物語っている。コンパクトデジカメは、単なるレトロ趣味なリバイバルではない、新しい解釈が求められている。
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