「他人にお金を配りたくなるスイッチ」発見? 脳への電気刺激で“利他的行動”増大 スイスチームが報告:Innovative Tech
スイスのチューリッヒ大学などに所属する研究者らは、頭皮上から脳へ微弱な電気刺激を与えることで、利他的行動を促進できることを実証した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
スイスのチューリッヒ大学などに所属する研究者らがPLOS Biology誌で発表した論文「Augmentation of frontoparietal gamma-band phase coupling enhances human altruistic behavior」は、頭皮上から脳へ微弱な電気刺激を与えることで、利他的行動を促進できることを実証した研究報告だ。
人間社会の協力や結束の基盤となるのが、他者のために自身の資源を分け与える利他主義だ。しかし、この利他的な行動をとる傾向には個人差があり、特に自分が相手よりも少ない資源しか持っていない不利な不平などの状況下では、他者に配慮することは難しくなる。
これまでの脳波を用いた研究から、自分が不利な状況にありながらも利他的な選択をする際、脳の2つの領域が強く連携していることが分かっている。他者の利益を評価する前頭葉と、情報を集約して最終的な意思決定を下す頭頂葉だ。
具体的には、この2つの領域間でγ帯域と呼ばれる特定の脳波のリズムが同期することで、他者への配慮が実際の行動に結びついている可能性が示唆されていた。
そこで研究チームは、頭皮の上から微弱な電流を流して脳の活動を安全に調整する「経頭蓋交流電気刺激」(tACS)という技術を用いた。頭蓋骨を開けたり、脳の内部に直接機器を埋め込んだりするような外科的処置を伴うものではない非侵襲アプローチだ。
44人の参加者を対象に前頭葉と頭頂葉の間のγ帯域の結合をtACSによって外部から増強させ、その状態で自分と匿名の相手との間で金銭を分配する意思決定ゲームを行わせた。
実験の結果、γ帯域の同期を促す刺激を受けた参加者は、別の周波数(α帯域)の刺激や効果のない偽の刺激を受けた参加者と比較して、自分の取り分を減らしてでも相手に多く分配する利他的な選択をする確率が有意に増加した。
さらに、計算モデルを用いた詳細な分析から、この行動変化は単に判断が曖昧(あいまい)になったりノイズが混ざったりした結果ではなく、選択の際に他者の利益を考慮する重み付けが明確に高まったためであることを確認。この効果は事前の予測通り、自分が相手よりも少ない金銭しか持っていない不利な状況において特に顕著であった。
Source and Image Credits: Hu J, Moisa M, Ruff CC(2026)Augmentation of frontoparietal gamma-band phase coupling enhances human altruistic behavior. PLoS Biol 24(2): e3003602. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003602
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