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AI軍事利用の「いつかきた道」 テクノロジーの使い方に誰が“鈴をつける”のか小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

AIの軍事利用を拒否した米Anthropicが、米国防総省から「サプライチェーンリスク」として指定されるという前代未聞の事態が起きた。一方で軍との契約を結んだOpenAIは、ChatGPTの削除ユーザーが急増。消費者がAIの「平和利用」を選択肢として意識し始めた今、ドローンが歩んだ軍事利用の道をAIも歩もうとしている。テクノロジーの選択は、戦争への加担を問う究極の踏み絵になりつつある。

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AI軍事利用の「いつかきた道」

 AIの軍事利用は、今後どのように進むのか。これを予感させる例に、ドローンの軍事利用がある。

 軍事用ドローン、いわゆる無人航空機(UAV)の先陣を切ったのは米国だった。ごく初期には1960年代のベトナム戦争で、偵察用の無人機が使用された。攻撃用として本格的に導入されるのは、2001年9月11日の同時多発テロに対するアフガニスタン報復攻撃以降である。

 ドローンとは言っても、現在我々がイメージするプロペラ4つのタイプではなく、飛行機型だ。偵察用ならともかく、攻撃用はスピードが問題になるので、固定翼の飛行機型が多い。

 現在ロシア - ウクライナ戦争でもドローンが投入されている。ウクライナ側は国内生産機が中心だが、トルコ、米国、イギリス、リトアニアなども機体を供給している。一方ロシアもイランからの技術供与を受け、急速にドローン技術を発展させて対抗している。

 米国・イスラエル - イラン戦争では、イラン側はおもに国内開発・製造のドローンを使用している。イスラエルは元々軍用ドローンを早くから体系化して導入しているが、イランに対しての主力は米国・イスラエルともにミサイルである。

 一方でクワッドコプターのドローンは中国企業、特に中国DJIが高い技術力を誇る。このため米国では2017年から、米国防総省がDJI製ドローンの使用を禁止した。また現在は国家安全保障を理由に連邦通信委員会(FCC)が中国企業製ドローンの認証を拒否しており、新モデルの販売や使用ができない状態になっている。

 ドローンはかつて一部の先進国や先進企業が知見を握っていたが、知識が一般化すると各国で独自に廉価なものが開発可能になり、それが戦場に投入されることになった。

 現在ドローンの戦場投入に異論を唱える人はほとんどいない。人が死なないならいいじゃないかと思われている節もあるが、軍事用ドローンの目的は施設破壊と言われつつも、実際にはそれに伴って多数の人命が失われている。

 戦争にドローンが利用されるのは、2つの理由がある。1つは、攻撃する側とされる側の、人命の非対称性が大きいことだ。片やゼロ、片や無限大であるため、ノーリスクで人命を奪える武器となっている。

 2つ目は、コストの非対称性である。ミサイル迎撃用ドローンが低コストなのに比べ、長距離攻撃用ミサイルは非常に高コストである。長距離ミサイルと迎撃用ドローンが1対1で対応する場合、攻撃側が圧倒的にコスト面で不利になる。

 AIも現在は米中の企業がほぼ知見を独占した状態にあるが、数年から10数年後にはどの国でも独自に技術を発展させることができるだろう。そうなった時、軍事利用に異を唱える人はいなくなっている可能性が高い。

AI企業の「レッドライン」は妥当か

 AI企業が懸念しているのは、

  1. 自社AIが自律兵器に利用されること
  2. 国内監視用途に利用されること

 の2点だ。

 1はAIがドローンを直接的に運用するということだけにとどまらず、AIを使って自律航行プログラムを書くということまで含まれるだろうか。こうした穴が塞がれない限り、1の制限は意味がない。

 また2で自国民の監視は禁止しても、敵国民への監視を含めた攻撃的目的が可能であるならば、これも意味がない。敵国がAIを利用しないという理由は何もないわけで、敵味方入り混じってのAIによる他国民監視が行われるだけの話である。戦争中に自分たちの武器は自分たちには銃口を向けないというのは大原則であり、この規定でどの程度の安全性が確保できるのか。

 AIが汎用技術となり、どの国も独自にAIを開発するようになれば、なまじこうした規定がある国の方が劣勢となる可能性もある。

 とはいえ、消費者や市民が軍事利用を許すAI企業に対してNoを突きつけるのは、意義のあることである。軍と組んだ企業が成長し、手を切った企業が衰退するような社会は、安全とは程遠いものになる。

 今米国が直面しているのは、戦争で成長しようとする国家戦略に対して、どのように対峙できるのかという課題である。米国市民はもちろんのこと、巨大テック企業にとってもこれほど大きな決断を迫られたことは過去になかったかもしれない。

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