Netflix「WBC中継」はライブでありライブラリでもあった――テレビと違う、配信ならではの視聴体験:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(1/3 ページ)
150億円の放映権を独占した米Netflixは、WBC2026を単なるスポーツ中継ではなく"ネット配信のショーケース"に変えた。CMにカウントダウンを表示し、PinPで試合映像と同時表示する――テレビが追いつけない視聴体験の裏側に、放送業界が直面する構造変化の予兆が見える。
3月5日からスタートした「WBC2026」。日本で行われたプールCは10日で全試合が終了し、「侍ジャパン」は全勝で準々決勝ラウンドへコマを進めたものの、15日のベネズエラ戦で敗れ、準決勝進出を逃した。
今回のWBCは、日本ではテレビ中継がなく、米Netflixによる独占ライブ配信で行われている。日本以外の地域では、スポーツ放送局による放送となっている。
従来WBCの中継は、電通が代理店となって大会運営側と話をまとめ、各テレビ局が費用を分担するという構造になっていた。だが今回は米国内で、運営側とNetflixで直接話を決めたと聞いている。
そもそも全体会の5倍と言われる150億円の放映権は日本のテレビ局には負担できなかっただろうとも言われている。2月6日から22日まで「冬季オリンピック」を放映したばかりでもあり、昨今のワールドスポーツイベントの放映権高騰と円安のダブルパンチで、日本企業にとってはなかなか厳しい話である。
WBC開催前には、無料で見られない、年寄りにはNetflixの加入の仕方がわからないなど、マスコミでは盛んに騒いでいたが、結局のところ独占放映権を取得したNetflixを叩きたいのか、それとも放映権を取れなかったテレビ局を叩きたいのか、よくわからない論調であった。
日本におけるNetflix加入率は、コロナ禍の追い風もあったことから2024年の時点ですでに1000万世帯を突破しており、およそ5世帯に1世帯は加入済みである。有料ネット配信サービスとしては、かなり高い加入水準にある。今さら「ネットの見方がわからない」という論調には無理がある。実際試合が始まってみると、そうした論調は下火になっていった。「叩き」の旬は過ぎたということだろう。
プールCの全試合が終了したということで、日本国内の中継も終了したことになる。今回は日本で行われたWBCのライブ配信について、テレビ放送との違いをいくつかの方面から分析を加えてみたい。
技術的には地上波と遜色ない理由
ネットの意見を見てみると、Netflixによるライブ中継は、テレビとは違ったアングルで楽しめたという意見も多かった。ただこれは、レギュラーの野球中継と比べての話であろう。
こうしたワールドイベントの場合、公式戦の中継よりも多くのカメラが入るのが普通なので、Netflixだから、ということでもないはずだ。
なお日本の中継では、日本テレビが中継制作をNetflixから受託している。公式球場におけるライブ中継技術やノウハウをNetflix本体が持っているとは考えられず、外部の制作技術会社へ委託するのは妥当である。日本テレビの制作ではあるが、実際には日本テレビ以外の撮影・技術会社も多数入っているはずだ。
カメラ数はかなり多い。いわゆるスタジアムレンズを使った固定カメラは通常通りの配置だが、それに加えて客席の模様だけを撮影する機動部隊が、少なくとも2班以上出ている。機動性を考えれば、固定カメラではなく、おそらくハンディによるワイヤレス伝送だろう。
ホーム前や各ベースの近くに、地面に埋め込まれたカメラもあった。ホーム以外はあまり使われていなかったが、珍しいアングルである。
グラウンドには、ジンバルによるワイヤレス伝送カメラが配置されていた。筆者が映り込みを見つけた時は「α」のロゴが見えたので、おそらくソニーの「FX6」ではないかと思われる。ライブの時もあればスロー映像になっている時もあったので、おそらくカメラ側ではハイスピード撮影しており、中継サブ側でメモリー記録し、スローリプレイとしても出していたようだ。
ただジンバルカメラはこれは1台ではなく、おそらく複数台のカメラと人員が交代で撮影しているはずである。オープニングからエンディングのセレモニーまで含めれば4時間以上になる中継を、1人と1台のセットで走り回っているとは思えない。
また3塁側のグラウンドと同じレベルでの設置カメラに、1台シネマカメラと思われるものがあった。被写界深度がかなり浅く、高コントラストな映像で、ピッチャーやバッターを抜いていた。以前も本コラムで言及したことがあるが、「シネマティックライブ」は2025年あたりからワールドワイドで実戦投入され始めた考え方である。
カメラの多さは、スイッチングミスの減少にも貢献する。カメラが少ないと、1台のカメラをあちこちに振っていろんな絵を撮影しなければならず、スイッチャーとのタイミングが合わなければまだカメラがアングルを探している最中に取ってしまうようなミスが起こる。またベンチ内の選手を撮影しようとするも、前に別の選手がいて顔が見えないといったことも起こる。だが今回の中継を見る限り、そうしたミスは見られなかった。
サブカメラの伝送は、ワイヤレスも含めIP伝送をかなり使っているはずだ。カメラ数が多くなるほど、途中にルーターを入れて回線をまとめながらスイッチャーまで伝送したほうが、合理的だからだ。逆に主幹線が死ぬと複数台のカメラが死ぬという弱点もあるが、試合自体を撮るメインカメラはベースバンドで直結しておけば、大きな問題にはならない。東京ドーム自体がIPシステムを導入したという話は聞かないので、日本テレビ側の技術が持ち込んだものだろう。
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