Netflix「WBC中継」はライブでありライブラリでもあった――テレビと違う、配信ならではの視聴体験:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/3 ページ)
150億円の放映権を独占した米Netflixは、WBC2026を単なるスポーツ中継ではなく"ネット配信のショーケース"に変えた。CMにカウントダウンを表示し、PinPで試合映像と同時表示する――テレビが追いつけない視聴体験の裏側に、放送業界が直面する構造変化の予兆が見える。
スペシャルコンテンツを保持する意味
Netflixでは、WBC関係のコンテンツは試合中継だけにとどまらない。試合のハイライトや強化試合、プールC以外の3プールの試合も視聴することができる。さらにはWBC開催に至るまでのドキュメンタリー、過去5大会のダイジェストなどのコンテンツも制作されている。
加入すればライブだけでなく、これらをいつでも見られるというのは、スポーツファンにとっては魅力的だろう。いわゆる、大会全部のライブラリ化が行われるということだからだ。これは枠が無限大にあるというネットサービスならではのサービスである。
今回テレビ放送ではなかったデメリットとして、飲食店などの営業中の放映が利用規約上できなかったことが挙げられる。街頭テレビからスタートし、テレビがある家に近所の子どもたちが集まってきた時代から連綿と続くテレビ放送は、コンテンツを共同視聴することには基本的におおらかである。
ただNetflixもすべてのパブリックビューイングが禁止されたわけではなく、選手の出身地や縁のある地、出身校などでは、公式による『「2026 ワールドベースボールクラシック」ホームタウンヒーロー・パブリックビューイング』が実施された。放送中にもこうしたパブリックビューイング会場からの中継が挿入され、舞台を盛り上げた。高校野球中継などではおなじみの手法だが、仕掛けとして実によくできている。
今回のWBCは、ネット配信事業者のライブ中継参入という意味にとどまらず、ワールドイベントの映像化として意義深いイベントとなった。ライブに関しては技術的にはテレビ技術に頼るところが多い反面、ライブ配信後の素早い編集作業や周辺の編集コンテンツの豊富さは、ネットサービスならではの強みである。
150億円とされる放映権費用は、CM販売や新規加入者があったとしてもとても賄えるような金額ではないだろう。多額の持ち出しになっていると思われる。だがそれは、テレビ放映のような短期的収益で見るべきではない。この独占権が一過性のものではなく、次回3年後やそれ以降も価値を持ち続けるとしたら、ネット配信ならではの息の長い収益性で見るべきである。
さらに言えば、この独占配信はNetflix自体の広告宣伝費としても機能する。日本のテレビ局が束になってもかなわない、ワールドイベントを独占できるほどの事業規模があるということを日本国民へ訴えたということでもある。
すでにテレビのリモコンにNetflixの専用ボタンが搭載されて久しいが、これがテレビチャンネルボタンと同等の価値を持たせることに成功したのであれば、ネット配信事業者としては大きな成功である。
ここで注意しておきたいのは、Netflixが興味があるのはワールドイベントであって、必ずしもプロ野球のペナントレースではないということだ。デイリーな野球中継の収益性を考えれば、Netflixが乗り出す価値はない。よってプロ野球中継がネットに取って代わられるということはないだろう。
逆に言えば、テレビがせっせと日々放映するスポーツ中継が、ワールドスポーツイベントを抑えられる大規模ネット事業者の養分となる。今回うまく立ち回った日本テレビのような事例もあるように、今後のワールドイベントではテレビ局がネット配信事業者の下請けで働くという構図も見えてくる。
放送の未来としては、それも悪くないのではないか。自分たちしか持っていない技術を売るのは、悪いビジネスではない。ただしメンツを捨てれば、の話ではあるが。
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