「涼宮ハルヒの憂鬱」の視聴順を巡る4chan匿名ユーザーの投稿→うっかり数学の未解決問題で歴史的発見 2021年に論文化:ちょっと昔のInnovative Tech
アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の視聴順を巡るネット上の議論が、数学の未解決問題に歴史的な進展をもたらした。4chanの匿名ユーザー、SF作家、そして数学者たちの考えが結びつき、長年謎だった「最小超置換問題」の正体に迫った話を紹介する。
ちょっと昔のInnovative Tech:
2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の視聴順を巡るネット上の議論が、数学の未解決問題に歴史的な進展をもたらした。4chanの匿名ユーザー、SF作家、そして数学者たちの考えが結びつき、長年謎だった「最小超置換問題」の正体に迫った話を紹介する。
「1、2、3」という3つの数字をすべて1回ずつ使った並べ方は、「123」「132」「213」「231」「312」「321」の6通りある。これらすべてを単に横に繋げると18文字(「123132213231312321」)になる。しかし、文字列の一部を重ねることで、長さを大幅に節約することができる。
例えば「1、2」の2つの数字なら、並べ方は「12」と「21」の2通りだが、真ん中の「2」を重ねて「121」とすれば、3文字の中に両方のパターンを含めることができる。このように、考えうるすべての並び順(順列)を、末尾と先頭の文字を重ね合わせながら最も短く詰め込んだ文字列のことを「超順列」(スーパーパーミュテーション)あるいは「超置換」と呼ぶ。
先ほどの3つの数字の場合は「123121321」となり、9文字で全6パターンを網羅できる。数字の数が増えたとき、この最も圧縮された文字列の長さがいくつになるのかを解き明かすテーマは「最小超置換問題」と呼ばれる。
この純粋な数学の問題が、思わぬ形でインターネット上のサブカルチャーと結びついた。2006年に放送されたテレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」だ。このアニメは全14話からなるが、テレビ放送時には時系列がバラバラにシャッフルされた順序で放映された。そのため、ファンの間ではどの順番で見るのが一番正しいのかという議論が絶えなかった。
そして2011年、海外の匿名掲示板「4chan」で、ある途方もない疑問を投げかける者が現れた。すべての考えうる順番で全14話を網羅して視聴するには、最低何話見ればいいのか。これこそが、数学界で「ハルヒ問題」と呼ばれるようになった難問の始まりである。
全14話を並べ替える組み合わせは、14の階乗(14×13×12×…×1)、つまり約871億(87,178,291,200)通りも存在する。すべてを律儀に1回ずつ見れば14話×871億で約1兆2200億(1,220,496,076,800)話を見なければならない。
しかし、超順列の重ね合わせのテクニックを使えば、直前の視聴履歴を次の順序の一部として使い回すことができるため、視聴回数を大幅に圧縮できる。とはいえ、その具体的な最短回数は誰にもわからなかった。
そこへ現れたのが、謎の匿名ユーザーである。この匿名ユーザーは、順列の重なり具合をモデル化し、無駄なくパターンを重ねていったとしてもどうしてもこれ以上は短縮できないという限界値(下界)を示す論証を投稿した。
下界の証明に使われる論証
この論証をハルヒ問題に当てはめると、全パターンを網羅するためには、どれだけ効率よくエピソードを重ね合わせても、最低でも938億8431万3611話を連続で見続けなければならないことが明らかになった。
当初、この匿名ユーザーの書き込みはアニメファン同士の高度な言葉遊びとして片付けられ、大きく注目されないまま埋もれていた。
転機が訪れたのは18年。SF作家グレッグ・イーガンが、超順列問題の上界を大幅に押し下げる新たな構成法を発表した。イーガンの突破口が、長らく忘れられていた11年の4chan投稿に再び光を当てることになる。論証は本当に正しいのではないかと考えた数学者らが内容を精査し、匿名ユーザーの議論を数学の形へと整理した。
こうして同年、学術論文「A lower bound on the length of the shortest superpattern」が公開された。第一著者名には、「Anonymous 4chan Poster」と記されている。
イーガンの上界と匿名ユーザーの下界は、驚くほど近い値で挟み合っていた。n=14、すなわちハルヒ問題で言えば、上界は939億2423万411話、下界は938億8431万3611話。その差はわずか約4000万話、真の答えはこの範囲のどこかに潜んでいることになる。
これら一連の騒動から得られた知見は、21年に発表された論文「Containing All Permutations」に整理されている。
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