とある「銅化合物」が脳の“ゴミ掃除ポンプ”を修繕、マウス実験で記憶力が約44%向上 アルツハイマー病治療に期待:Innovative Tech
オーストラリアのモナシュ大学などに所属する研究者らが査読付きの学術誌ACS Chemical Neuroscienceに発表した論文「Cu(ATSM) Restores Blood-Brain Barrier Abundance of P-Glycoprotein and Improves Cognitive Function in the APP/PS1 Mouse Model of Alzheimer’s Disease」は、銅をベースにした薬剤がアルツハイマー病の原因となる有毒タンパク質の蓄積を減らし、マウスの実験において記憶力を回復させることを示した研究報告だ。
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
オーストラリアのモナシュ大学などに所属する研究者らが査読付きの学術誌ACS Chemical Neuroscienceに発表した論文「Cu(ATSM) Restores Blood‐Brain Barrier Abundance of P-Glycoprotein and Improves Cognitive Function in the APP/PS1 Mouse Model of Alzheimer’s Disease」は、銅をベースにした薬剤がアルツハイマー病の原因となる有毒タンパク質の蓄積を減らし、マウスの実験において記憶力を回復させることを示した研究報告だ。脳の血管が持つ老廃物の排出機能を修復するという。
アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβと呼ばれる有毒なタンパク質が、いわば脳のゴミとして蓄積することで進行する。
健康な状態であれば、血液脳関門(脳にある血管の壁)にある「P糖タンパク質」(P-gp)ポンプという特殊な排出装置が、このゴミを脳の外へと運び出してくれる。しかし、病気になるとこのポンプの働きが鈍り、有害な物質が脳内に溜まり続けてしまう。
今回のマウス実験で使用されたCu(ATSM)という銅化合物は、この低下したポンプ機能を回復させる働きを持つ。研究チームによると、薬の投与によって脳内のポンプの量が約24%増加し、ゴミを排出する能力が再び活発になったという。
その結果、56日間の治療で有毒なアミロイドβが42%減少し、空間を認識する記憶力も約44%向上するという効果が確認された。
この薬剤が持つ強みは、人間への実用化に向けた道のりが比較的短いと予想されること。新薬をゼロから開発するには通常膨大な時間がかかるが、Cu(ATSM)はすでにパーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)といった別の神経疾患向けに安全性のテストが進められている。そのため、アルツハイマー病の患者を対象とした臨床試験へもスムーズに移行できる可能性が高い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
“鼻をほじる”と認知症になりやすい? オーストラリアの研究者が23年に研究発表 指に付いた細菌が嗅覚系から脳に侵入
オーストラリアのウェスタンシドニー大学などに所属する研究者らが2023年に、アルツハイマー病(AD)の発症メカニズムに関する新たな仮説を発表した。
「脳内のゴミ掃除機能」壊す新たな一因を特定 抗体で狙い撃ち→マウスのアルツハイマー症状が改善
広州医科大学などに所属する研究者らが発表した論文「A brain-persistent DDR2-degrading antibody reverses Alzheimer’s pathologies by restoring brain fluid dynamics and metabolic clearance」は、アルツハイマー病に伴い脳の老廃物排出システムの崩壊を引き起こす原因タンパク質を特定し、これを分解する抗体を脳内に届けることで病態を改善できることをマウスで示した研究報告だ。
首と顔をマッサージ→脳の老廃物の排出を促進、認知症リスク低下 マウス実験で検証 韓国チームがNatureで発表
韓国科学技術院(KAIST)などに所属する研究者らは、首と顔を優しくマッサージするだけで脳の老廃物排出低下を改善できることを発表した研究報告を発表した。
40歳以上はカフェインの“効き”が悪い? 寝る前のコーヒーで睡眠と脳波を調査 Nature系列誌で報告
カナダのモントリオール大学などに所属する研究者らは、カフェインが睡眠中の脳の複雑性を増大させ、その影響は若年層と中年層で異なることを明らかにした研究報告を発表した。
ダンゴムシの足と遠隔で触れ合える装置 立命館大が開発
立命館大学小西聡研究室の研究チームは、ダンゴムシの足を遠隔操作で触れて、蹴り返してきた反力を計測する触覚デバイスを提案した研究報告を発表した。

