「うずしお」では受注できなかった──社名を「BEMAC」に変えた電気設備企業に起きたこと:ニッチ企業でもできる!IT活用で海外進出
グローバルニッチは高い技術力を持つ一方で、知名度が実力に比べて劣り、ITを駆使して海外でのブランディングや販売に生かしていることも多い。この連載では、こうした企業のIT戦略をインタビューで深堀りする。今回は船舶用の電気設備などを提供するBEMAC(愛媛県今治市)を取り上げる。
世界でも高い技術力を持つことで知られる日本企業。ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業は少なくない。ドイツの経営思想家のハーマン・サイモン氏はこうした企業を「隠れたチャンピオン」と定義し、経済産業省も「グローバルニッチトップ企業」として支援している。
グローバルニッチは高い技術力を持つ一方で、知名度が実力に比べて劣り、ITを駆使して海外でのブランディングや販売にいかしていることも多い。この連載では、こうした企業の戦略をインタビューで深堀りする。
第14回は船舶用の電気設備などを提供するBEMAC(愛媛県今治市)を取り上げる。同社は世界中の船舶の機関の温度や圧力などをセンサーで管理し、迅速にトラブルを発見し、解決する技術を手掛ける。
同社の長野純也さん(デバイス&コミュニケーション室・事業開発課長)は、船舶のIT化が自社製品の機能向上につながったと話す。さらに、昨今SNSなどで話題になりがちな、なじみのある社名を変更する判断も、海外展開に寄与したという。聞き手は、海外進出する中小企業のブランディング支援などを手掛けるZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)。
「うずしお」では受注できなかった 船舶IT化とブランド変更が奏功
──BEMACは船舶用の電気設備の製造・販売などに携わっています。事業の概要を教えてください
長野さん(以下、長野):当社は1946年4月に愛媛県今治市で創業しました。もともとは「渦潮電機」という社名で、漁船に搭載される集魚灯の蓄電池の販売と充電業をしていました。52年に船舶の配線や配電盤の事業を始め、それが現在のビジネスの基盤となっています。
現在は「海洋事業」「産業事業」「EV事業」の3つの柱で事業を展開しています。このうち海洋事業で、大型船舶の配電システムや制御システムなど、電気機器全般の設計・製造・工事・メンテナンスを一貫して手掛けています。従業員は約2100人で、本社は今治市と東京・日比谷にあります。営業拠点は大阪、福岡、香川の3カ所にあります。
──船舶の電気設備は国内外に競合他社が多いかと思いますが、どのような点に優勢があるのでしょうか
長野:当社は舶用電気機器の製造・販売だけでなく、電線でつなぐ電気工事の設計・施工、アフターサービスなどをワンストップで提供できるところが強みです。単純なモノ作りだけでなく、船舶用発電機や無線やレーダー、GPS(全地球測位システム)など航海計器も仕入れて提供できます。船舶の電気設備構築を総合的にできるのは国内で唯一だと考えています。
──海外での需要開拓にも取り組んでいます。海外進出したのはいつごろでしょうか
長野:04年にベトナムに現地法人を設立し、製造拠点(工場)をつくったのが最初の海外進出です。同時期に中国・大連にも現地法人を設立しました。海外の現地法人は現在、シンガポール、フィリピンを含めて4つあります。これに加えて、24年にはフィンランドの発電機メーカーを買収し、完全子会社化しました。
──海外に進出したきっかけや理由は
長野:00年前後に中国、韓国の造船メーカーが急成長し、日本の造船メーカーも人件費の安い東南アジアなど海外に生産を拡大していきました。そうした企業に当社の電気設備を納入するために追随する形で進出したのが始まりです。これに加えて、中国や韓国の造船メーカーが製造する船にも当社の製品が搭載される可能性が高まり、ビジネスチャンスが拡大することが海外進出の原動力になりました。
造船メーカーが製造する船舶の船主の多くは欧州やシンガポールに住んでいます。このため当社は販売後のメンテナンスも請け負っており、シンガポールにも拠点を持っています。ここでは船舶を建造したり、修理や解体したりする中核施設である「ドック」に入らなくても応急的な修理をすることができます。
現在は、メンテナンスの代理店をアジア、北中米、欧州、UAE、南アフリカなど世界16カ所に持ち、修理が必要な場合、いつでも出張に行ける体制を構築しています。この結果、海外事業の売上高は直近10年(15年度実績→25年度見込み)で約7.5倍に急増しました。
──この10年で海外事業は急成長していますが、きっかけになるできごとは
長野:最も苦労したことの一つが海外でのブランディングです。当社の社名は当初、渦潮電機という名前でした。しかし、外国人にとって「うずしお」という名前は馴染みがない上、発音も難しく、なかなか覚えてもらえませんでした。展示会に出展しても、うずしおの「U」ではアルファベット順の出展リストの下の方に位置づけられ、目立ちません。
そこで02年にコーポレートブランド「BEMAC」(ビーマック)をつくり、海外でも全ての製品をBEMACブランドで販売するようにしました。BEMACは、Beam(光)、Metrical(調律)、Alternative(新しい潮流)、Creation(創造)の頭文字などを取ったものです。
渦潮電機だと受注できなかったものが、BEMACブランドにした途端に受注できた案件も少なくありません。このため、19年には社名自体をBEMACに変更しました。
──AIも含めたITの発展は著しいですが、BEMACの海外事業にもたらした影響は
長野:船舶のIT化、電子化が進んだことによって、陸上にいながらにして、船が海外のどこにいてもデータを集めることができるようになりました。当社が19年に開発した「MaSSA‐One」(マーサワン)では、船の機関の温度・圧力・回転数・燃料消費をセンサー検知した情報など多くのデータをクラウド上で集めることができます。
これにより船舶管理者は陸上にいながらデータで運行状況を監視したり、トラブルの原因を分析したりすることができます。連携するエンジンメーカーや発電機メーカーなどともデータを共有することで、より迅速にトラブルを発見することができ、メーカー側も運航データを用いて自社製品の機能アップにつなげることができるようになりました。
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