描いた場所に描ける楽しさ、気持ちよさは、まさにTabletPCの独壇場TabletPCハンズオン(5)──for Graphics Users(2/2 ページ)

» 2005年03月23日 09時30分 公開
[まつばらあつし,ITmedia]
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 皆さんにTabletPCでしばらく“遊んで”もらったが、グラフィックスを生業とする人たちにとって、TabletPCはかなり魅力的な製品として目に映るようだ。「どこで売ってるのか?」、「値段はいくら?」、「他のメーカーのもあるのか?」、「ちょうだい。ダメ?」(笑)といった質問攻めにもあった。

 誰かがTabletPCを使って何か描いていると、必ず何人かがのぞきに来て、そして自分でも何か描いてみたくなる、といった感じで、かなりの人気だったことも付け加えておこう。

誰かがTabletPCを使っていると、他の人も寄ってきて付かず離れず眺めたり。グラフィックスを生業としているだけに、どんな風に使えるのか興味津々といったところだ

デジタル画板か、PCのふりをしたスケッチブックか

 さて、ライターとして、またイラストレーターとして、この2カ月近くをTabletPCと過ごしてきた筆者の感想はどうか? ということになるのだが、正直に言えば、ベストではないけれど、イラストレーターのツールとしては、現時点では“モアベター”な存在、それがTabletPCだと思う。

ちょいとくたびれた表情のワンちゃんの肖像に挑戦。少々ラフな感じではあるが、油絵風のテイストで描けるのがグッド。しかも、筆を洗わなくても済むし、絵の具も減らない。ある種のエコロジー(?)か

 くどいようだが、直接画面に描けるというメリットは何物にも代えがたい。ワコムの「Cintiq」という液晶タブレットも同じメリットを持ってはいるが、Cintiqはあくまでもディスプレイとタブレットの機能だけを備えたデバイスであり、コンピュータ本体は別に必要である。それがTabletPCのもう一つの大きなメリットである自由な場所、自由な姿勢で使えるという点と大きく異なる。

 持ち歩いて好きなところで描き、あるいはPCとして実務もこなす。この辺のフレキシビリティはTabletPCの独断場だと思う。

 TabletPCだけを持って公園に出かけ、ラフなスケッチをいくつか描いた後、近所のモスバーガーで一服。ここは無線LANが使えるので、メールチェックしたりWebの天気予報を見てから家に帰る、なんてことができるのだから恐れ入る。持ち歩いているdynabook R10がPCであることさえ忘れてしまいそうなほど(実際に忘れる訳ではないけれど)、お絵描きを含めた普段の生活に溶け込んでくれる。

 とはいえ、それなりに重量や厚みがあるので、スケッチブックのように気軽に持ち歩いて気ままに描けるというところまではなかなか行かないのかもしれない。でも、そんなウィークポイントでさえも、画面に直接描ける気持ちよさに『細かいところはどうでもいいや。使ってて面白いからOK』という気になってしまうから不思議だ。

 今回の企画で何人もの人に話を聞いて強く感じたのは、その辺の人間のアバウトさというか、好きなもの、楽しいもの、気持ちいいものに対する寛容さだ。もちろんTabletPCによって得られる実益もいろいろと語ってくれるのだが、それ以上に「楽しい」とか「気持ちいい」といった感覚的な答えが多かったことからもそれがうかがえよう。

 最先端のデジタルデバイスでありながら、TabletPCは人間の視覚とか触覚といった感覚的な部分に強く訴えかけてくるような気がする。鉛筆やペンなどのアナログデバイスでは当たり前の“直接描ける(書ける)”感覚がデジタルで再現されるすごさと楽しさ。それがTabletPCの大きな魅力ではないかと思う。

公園で“実演中”の筆者とdynabook R10。部屋の中ではけっこう感じたdynabook R10の大きさや重さも、外に持ち出すとさほど気にならない。それ以上に、アウトドアで描ける気持ち良さ、姿勢を選ばない自由さがなんとも嬉しい

 デジタルデバイスは、いや、TabletPCに限って言えば、進化するに従ってアナログ的感触を身に付けていく「先祖帰り的進化」が、現時点での目標なのかもしれない。とすれば、まだまだTabletPCは過渡期にあるという印象だ。ハードウェアも、ソフトウェアも。

 いつの日か、鉛筆やペンや筆を経験したことがない新しい世代が主流になる頃には、もしかしたらTabletPCが彼らの感触のベースになるのかもしれない。そして、今の我々が鉛筆やペンの感触に懐かしさを抱き、その感触をデジタルデバイスに求めるのと同様に、彼らもまたTabletPCの感触に懐かしさを抱き、その感触を別のデジタルデバイスに求めるのだろうか。

 もっともその頃には、TabletPCのようなタッチ系のデバイスが当たり前になって、TabletPCという言葉すらなくなっているかもしれないが……。


 などと、もっともらしいことを長々と書いてきたが、本当に正直な感想を最後に一つだけ。

 「借りているこのTabletPC、返したくないなあ……(笑)」


 5回にわたってお送りしてきたTabletPCハンズオン企画。短い間ではありましたが、お付き合いくださりありがとうございました。これからも、ITmediaとともにTabletPCもよろしくお願いいたします。

 また、マイクロソフトのWebサイトには、クリエイティブ分野におけるTabletPCの活用方法や、漫画家モンキー・パンチ氏など著名クリエイター5名の活用事例やインタビューなどを紹介するスペシャルコンセプトサイト「TabletPC GET(Graphics Entertainment Talk)」が開設されているので、こちらもご覧ください。

 それではまたお会いできる日まで。

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