28ミリからの広角撮影に対応した高級コンパクトデジカメ――キヤノン「PowerShot S60」(1/3 ページ)
「PowerShot S60」は、中級以上のユーザーにずっと望まれていた広角系ズームを搭載して登場したSシリーズの最新作。搭載されている「DIGIC」エンジンの完成度は高く、やや影が薄くなりかけていた「全部入り高級高機能コンパクト」に新たな魅力を追加した製品と言えよう。
PowerShotにはいろいろなシリーズがあって分かりづらいが、Sシリーズはとりわけ高機能だけれどもハイエンドじゃないという、まあ上から2番目の路線と考えればよい。
S30/40からはじまったこのシリーズは、ちょっと大きめのスティックスタイルで、レンズカバーを開くと電源が入るというシステムを採用。さらにマニュアル撮影機能の充実など、銀塩カメラユーザーには比較的とっつきやすく、フルオートのデジカメでは満足できないけど携帯性の高い機種が欲しいという人たちにアピールする製品として登場した。
このジャンルは当時「全部入りの高級高機能コンパクト」などと言われたもの。ちょっと高価だが機能はしっかりしており、いくつかのメーカーから競合製品が発売されていたものだ。
「PowerShot S60」(以下、S60)はその流れをくむ最新作だが、それまでの製品と一番違うのはレンズ。中級以上のユーザーにずっと望まれていた広角系ズームを搭載してきたのだ。やや影が薄くなりかけていた「全部入り高級高機能コンパクト」に新たな魅力を投入したと言えよう。
28ミリからの3.6倍ズームが可能
ボディのデザインは若干リニューアルされ、少し薄くなり、ユーザーインタフェースも大きく改善された。他のシリーズに比べて十字キーの位置や操作感にクセがあったのだが、S60では背面に十字キーが装備されて、操作が分かりやすくなっている。
その分グリップしたときの親指のおさまりは多少悪くなったが、マニュアル系重視のコンセプトを考えると操作性が高い方がよい。
そして何よりもっとも進歩したのがレンズ。S60は新開発の28ミリからの3.6倍ズームを搭載。3.6倍とズームレンジを伸ばしたことで、広角側は28ミリとワイド側に広げつつ、テレ側は100ミリをなんとか維持。従来の3倍ズームをワイド側に伸ばしたズーム域を持つと思えばよい。
それを3倍ズームの従来モデル「PowerShot S50」(以下、S50)より薄くできたのは、超高屈折率非球面レンズ「UAレンズ」の採用による。UAレンズをコンパクトデジカメで初めて採用したのがS60なのだ。
明るさこそF2.8-5.3とテレ側で若干暗くなっているが、コンパクトなワイドズームでは仕方がないところだ。
沈胴もS50の2段沈胴から3段沈胴へと増え、レンズの駆動も高速になり起動時間も短くなっている。前モデルのS50では起動に3秒以上かかっていたが、S60では約2秒に落ち着いた。
そのレンズはなかなか優秀でワイド端でも周辺の樽型歪みがほとんどなくてディテールまで鮮明。逆にテレ端ではほんの少し糸巻き型の歪みが周辺に観られるが、ほとんど気にならないレベルだ。CCDは1/1.8インチサイズの500万画素で前モデルのS50と同じ。
画質面ではキヤノンは最近のTVCFでも宣伝しているように、オリジナルの映像エンジン「DIGIC」を昨年より、最下位モデルから一眼レフのEOSシリーズ、最近ではDVカメラに至るまで採用しており、基本的な画質はどれも同じだ。
当然採用するCCDのレベルやレンズなどによる微妙な違いはあるが、1年以上同じ映像エンジンを使っているほどDIGICの完成度は高く、フルオート時のヒット率もかなりいい。S60も同様で安定度は高い。
青空や緑といった記憶色を意識しつつ鮮やかな発色を示し、ディテールがしっかりしている割にはノイズをうまく押さえ込んでいるというのが全体の印象だ。人物はやや暖色系に、肌色をしっかり描写する傾向を示し、色温度が低いシーンでは無理に白を合わさず、照明の雰囲気を残した絵を見せてくれる。
デフォルトでも十分鮮やかだが、色効果モードで「くっきりカラー」にするとウソのような青空の描写を見せてくれるし、逆に「すっきりカラー」にすると彩度やコントラストを抑えめにした絵を見せてくれるという絵作りができるのも、S60の面白さだ。
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