キーボードにこだわる理由を考える(3/3 ページ)
筆者はキーボードのコレクターではない。にもかかわらず、使用可能にあるキーボードが7台、うち5台は1万円を超える。ゼイタク者に見えるだろうが、そこにはやむにやまれぬ事情がある。そしてつい先日も、東プレの「キャパシティブ・コンパクトキーボード」を買ってしまったのだ。
いや今だからそんなことを書いているが、実はアキバの某店で見たときはそんな情報は何にも知らず、単にRealforce 89のノートタイプ版が新しく出たのかと思ったのである。そう、ちょうど「書けない」状態に陥りそうだったこともあり、とにかく気分を変えたいときだったのだ。
日本語キーボードしかないことにちゅうちょしたが、もともとRealforce 89も日本語版しかない。しかもフラットタイプならば、筆者の敵である「無変換」「変換」キーもあまり気にならない。まあ頭の中でいろいろな言い訳をしながら、しばらく店内をウロウロし、結局購入した。
Realforce 89に比べると、右側のPage Up/Downなどの一群が上にあり、矢印キーも内側に組み込まれているので、左右はコンパクトだが、上下に若干長い。さらにRealforceシリーズではないので、表面にはロゴなどの表示は一切ない。一見すると、ノーブランドのキーボードに見えるが、これでも1万6千円程度するのである。
だがCaps Lockなどに埋め込まれているLEDもしっかり光り、それなりにお金がかかっている様子がうかがえる作りになっている。コネクタはPS/2で、キーボード側も左の根元も外れるようになっている。一方、右側にもコネクタ用の穴は空いているが、ゴムパーツで埋めてあり、中部にはコネクタはない。
試しに中を開けてみたところ、厚みのある鉄板にスイッチが取り付けられ、鉄板を挟んで反対側に1枚基板があるだけと、作り自体は非常にシンプルだ。コネクタはやはり反対側には取り付けられていないものの、パターンはあり、両方にコネクタが付いているモデルも過去には存在したのかもしれない。
肝心のキータッチだが、よくあるこの手のキーボードよりも剛性が高く、強くタイプしてもタワミは全く感じない。キーの重さは、スペックとしては40グラム±15グラムと曖昧だが、平均すればRealforceの45グラムよりも若干軽いはずだ。しかし実際にタイプしてみると、Realforceよりも若干重く感じる。ストロークが短いぶんだけ、そう感じるのかもしれない。
もちろんキースイッチは、そもそも名前がキャパシティブであることからもお分かりのように、静電容量型無接点方式である。カタログにはRealforceで話題になった、小指で押す範囲のキーが軽くなっているという情報はないが、筆者の感触では、やはり同じように左右の端のキーは少し軽めになっているように思える。
これまでRealforce 101を使っていたのだが、そこからこれに乗り換えてしばらくは、指に若干の疲労を覚えた。また慣れない日本語キーボードではEnterキーまでがキー一つ分だけ遠く、どうしてもミスタッチが多くなる。おそらく通常のペースの1.5倍ぐらいはタイプしているだろう。
だがどうにかこうにか、数カ月おきに訪れる「書けない病」から無事復帰することができているのは、こうした指先から伝わる新しい感触のおかげなのである。例えばギタリストが何本もギターを保有するというのは、単なるスペアとは意味が違う。1本1本に音や弾き心地が違うことが面白みでもあり、刺激でもあるわけだ。
PCのキーボードも、これと似ているのかもしれない。行き着く先は、キーボードマニアか、はたまた自作キーボードか。なんとも出口の見えない対処療法だが、これからもなんとかこんな方法で乗り切っていけそうな気がしている。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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