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中国は「海賊版」から逃れられるか山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)

中国のPC事情を語るとき、どうしても逃れられないのが「違法コピー」という言葉。できることなら避けておきたいこの話題だが、これを知らずして中国を語るなかれ、ということでついに取り上げることに。こういうのを「虎の尾を踏む」というのだろうな。

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中国から違法コピーが消えたらどうなる?

 中国で違法コピーゼロになったらどうなるのだろうと考えてみた。今現在、どんなところでPCが利用されているのかが分かれば、その業界がコピーソフト利用できないことで、そのような影響を受けるかわかるだろう。

 以前、この連載でも詳しく説明したが、正規版Windows XPに投資する場合、1台のPCに対して従業員2人分の月給、いわゆる「2人月」を払わなければいけない。ちょっと内陸に行くとWindows XPの1ライセンスで7〜8人月になるだろう。

 仮に、今でも違法コピー率が92%であれば、会社での海賊版CDの浸透具合は結構なものだろう。しかも仕事にオフィスソフトウェアが必須。海賊版ソフトで人気のMicrosoft Officeは正規版で4万円強。つまり導入には1台のPCに対しさらに4人月のコストが必要になる。

 企業だけではない。Microsoft Officeは中国の大都市から小都市までまんべんなくある、プリントアウトや名刺印刷を行う簡易ビジネスセンターで広く使われている。これらは個人運営の小店舗だが、個人の収入はだいたい1万円で貸店舗代が1万円強。


中国の簡易ビジネスセンター

 このような個人企業にWindows XPやMicrosoft Officeを正式に導入してみよう。ディスカウントしても合計で7万円はかかるはずだ。月収1万円規模のビジネスでこれはえらいことだ。

 7カ月分の給料ということは、月収30万円の日本人からすれば、たかだか雑居ビル1区画規模の個人商店の初期投資が、1台のPCに導入するソフトだけで210万円ということになる。中国ではPOS端末の代わりにPCを導入してるスーパーもある。こういった場合、レジが3カ所あれば日本円の感覚で660万円必要だ。

 街中にある写真屋は、デジカメで証明写真や記念写真を撮影して、加工編集した上でプリントアウトする。小店舗で従業員は2〜3人程度。ここで活躍するのがGIMPなどのフリーウェアではなくAdobeのPhotoShopだ。


こちらは典型的な街の写真屋さんの店内

 初期投資は1台のPCにつきWindows XPとPhotoShop。すべて正規ライセンスでそろえたコストを人件費に換算すると、従業員を1年間雇うのに匹敵するだろうか。ある小奇麗な写真屋にはPCが4台が置かれていて、デジカメのプリントや証明写真の注文をしている。4台のPCをOS、ソフトの購入価格は4人分の年収、というのだから、それだけで日本円でいえば1000万円となる。

 ネットカフェはどうだろう?マイクロソフトが中国においてネットカフェが海賊版を使っていることを訴えたことがあるが、やはり、少なからず海賊版ははびこっているようだ。そんなネットカフェにおいても主流のOSは価格2人月のWindows XP。


ネットカフェ。ここのPCすべてに正規版OSを入れるとハウマッチ?

 あるレポートでは中国にネットカフェは10万店舗あるという。1つの店舗に少なくとも20〜30台のPCがあるので、それだけで50人月分、日本円でいえば1500万くらいの感覚の初期投資がOSだけにかかる。逆に考えると50人月分のライセンス未払いが10万店舗あるということで、ネットカフェひとつとってもマイクロソフトの中国国内での損害はばかにならない。

 最近では750台のPCを擁する巨大なネットカフェも続々と登場してきている。この場合、初期投資だけで1500人月、金額にして3000万、つまり1カ月に1500人雇うほどの費用(日本の感覚だと月収30万として4億5千万円!)になる。

 正規版をコピーした海賊版が「本当に使えない」日が来たら、中国に限らず、海賊版が浸透している国では、倒産する企業が続出するのかもしれないし、物価が急上昇するのかもしれない。

 あまりに違法コピーCDに頼りすぎた社会は、正規版を普及させることがもはや不可能、ともいえる状態になっていたのだ。が、しかし。正規版の使用を厳密厳正に求めたとき、「窮鼠猫を噛む」社会全体でLinuxに移行する、なんていう逆転満塁サヨナラホームランがあるかもしれない。

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