あの思い出をクリスタルに……「薩摩式電子記憶装置」
大切な記憶をクリスタルガラスにしまっておく。日本の伝統工芸は、USBメモリさえ“浪漫ちっく”なモノに変えてしまうのだ。
伊藤忠商事は11月1、2の両日、本社ビルのある北青山で同社が推進する環境キャンペーン「MOTTAINAI」の展示会を開催した。その会場のフロア中央にある巨大なショーケースの中には「薩摩式電子記憶装置」の姿があった。
薩摩式電子記憶装置は、伊藤忠×島津興業×ソリッドアライアンス3社の業務提携第1弾として発表されたコラボ商品で、日本の伝統ガラス工芸である“薩摩切子”をUSBメモリのプリント基板にはめ込んだもの。USBメモリのデータ読み出し/書き込み時にLEDの光がガラス内部に乱反射する仕組みだ。透明なガラスと色ガラスの境界が曖昧な薩摩切子の“ボカシ”を通して、メモリアクセスのたびに本体が淡い光を放ち、思い出がクリスタルガラスに記録されていくような演出となっている。
「MOTTAINAIのキャンペーンの一環として、後継者不足や産業縮小に悩まされている伝統工芸を応援したいという気持ちがありました」と伊藤忠商事 山領雄氏は語る。「そこで考えたのがIT技術と伝統工芸の融合です。無機質なデザインやコスト優先の材質、そういったものが多いPC周辺機器にあえて“薩摩切子”を採用し、優れた伝統技術の存在を多くの人に再認識してもらうのが狙いでした」。
伝統工芸とIT製品のコラボレーションでは、“輪島塗”を採用したキーボードや金蒔絵を施したスキャナが記憶に新しい。石川県(輪島)と鹿児島県(薩摩)の違いはあるが、この薩摩式電子記憶装置も同様に、伝統的な工房がデザインを手がけている。薩摩藩島津家を継承する島津興業の「島津磯斉彬窯」――ガラス工芸品の製造工程で、最初の原料から調合を行う国内でも数少ない工房の1つだ。
薩摩切子の色ガラスは、紅・藍・紫・緑・金赤・黄色・瑠璃の全7色だが、今回発表された初期ロットに採用されている「金赤」は、生産の記述のみで実際に存在しなかった幻の色を昭和63年に復元したもの。また、フレーム部は真鍮(銅と亜鉛の合金)の削りだしとなっており、鮮やかな金色は時とともに渋みのある輝きへと変化していくという。
実際に手に取ってみると分かるが、その精緻な外観や絶妙な重量感は「ただの高級USBメモリだろ」の一言では片付けられない雰囲気がある。ソリッドアライアンスの話によれば、メモリ部分の工業生産の誤差(コンマミリ単位)を職人さん側でカットを調節してガラスをはめ込んでいるという。まさに職人魂の込められた一品だ。
ちなみに薩摩式電子記憶装置の価格は10万円。2GバイトのUSBメモリとして考えるとめまいがするような値段だが、「すでに購入を確約してくださったお客様もいらっしゃいます」(ソリッドアライアンス)。耐久性については「落とせばまず間違いなく割れてしまうでしょう。非常にもろいので思い出と同じように大切に扱ってください」とのこと。
思い出は美しくも儚いということか……。
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