北京五輪で盛り上がるか?中国“テレパソ”事情:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
大規模スポーツイベントが開催されるたびに、PCメーカーは「PCでTVを録画」する需要を喚起する。北京五輪は中国でも「PC特需」を起こすのだろうか。
中国TV事情で考える“Media Center”の意義
中国人のいう「TVが面白くない」というのは具体的にはどういうことか。中国人の意見を分析するといくつかの理由が見えてくる。「広告の時間が長すぎる」「広告がうさんくさい」「コンテンツそのものが広告だ」などなど。多くの意見で「広告」がキーワードとなっている。「コンテンツそのものが広告だ」という意見について、中国ではTVがプロパガンダ的な使命を課せられている事情もあってこれはある程度仕方のないところではある。「広告がうさんくさい」というコメントについては、CMの質が問われていると考えていい。中国のCMは商品連呼タイプのものが多く、これが続くとさすがにうんざりしてしまう。「広告の時間が長すぎる」というコメントも、中国のTVにおいてコンテンツ放送時間に対するCM放送時間が日本と比べて異様ともいえるほど長いという現実を示している。
中国製PCでは録画機能(これはDVDなどの流通コンテンツをHDDに保存するという需要も含めて)が必要とされていないため、大容量のデータストレージデバイスも普及していない。メーカー製PCでは、デスクトップPCのハイエンドモデルでHDDの容量が250Gバイト、ローエンドモデルで80Gバイトから160Gバイト、ノートPCでは40Gバイト~80Gバイトといった具合に、日本のメーカー製PCと比べると明らかに少ない。周辺機器についても、日本で販売されているRAID機能付きテラバイト級外付けHDDや、ネットワークストレージ、DLNA対応製品はコンシューマー市場向けに販売されていない。
昨今の中国における海賊版撲滅運動の一環で、正規版のWindows Vistaを搭載したPCが多くの中国PCメーカーからリリースされた。中国市場でリリースされているノートPCにはTVチューナーカードを搭載したモデルはないが、デスクトップPCについてはWindows Vista Home Premiumが中国PCメーカーの上位機種に導入されたのに合わせて、以前よりもTVチューナーカード搭載モデルが以前と比べて多くリリースされている。これまで説明してきたように、“録画”を忘れてしまった中国のユーザーに「Media Centerで録画する機能」は不要のはずだが、この連載でも紹介したように、中国のPCユーザーにはWindows Vistaを導入する動機として最も多かったWindows Aero機能を使えるようにするためWindows Vista Home Premiumが導入され、そのついでに、その実装機能をフルに使えるようにTVチューナーカードを搭載したような感もある。しかし、いくら安価なTVチューナーカードでも、PC本体に上乗せされる価格は、一般的な中国の都市住民には耐えがたい。「これも海賊版撲滅プロセスの過程」とはいえ、「豊かでない消費者に対して、PCメーカーが不要なハードウェアを加えて価格を上げるのはどうか」と思う。
中国のようにPCにはTVチューナーもMedia Center機能も必要ない国はあるだろう。米国や日本ではTVとPCの融合に前向きであったが、これから巨大なPC市場になる新興国には、BSAの海賊版利用率リポートにある現状を見る限り、海賊版コンテンツが蔓延している国も少なくない。そこでは、海賊版メディア、はたまたダウンロードした海賊版コンテンツでユーザーの需要は満たされ、Media Centerで提供される“録画”機能の必然性はない。
関連記事
中国で見つけたWindows Vista“Professional 2007”ってなに?
やっぱり出ましたWindows Vista。え、それはもう知っていると。 でも、Starter EditionとかUltimate “R”Editionって知っていました?大体、Vista 2007ってなによ。Vista登場で中華PCのOS事情は変わるのか
中華PCというと「OSなし」「DOS入り」「Linux入り」という印象が強い。政府の「正規OS入れなさい」宣言から初めてとなる新Windowsの出荷でメーカーの対応やいかに。Windows Vistaの発売日に中国はどうなった?
それなりに盛り上がったWindows Vistaの深夜販売イベント。世界各地で同様のお祭りが催されたようだが、中国における“真”の出荷開始日はどうも違うようだ。迷走する“EVD”を試しに購入してみた(後編)
「 前編」で購入してきたEVDで筆者は“華流AVライフ”を満喫……できたのだろうか。そもそも、EVDに明日はあるのだろうか。迷走する“EVD”を試しに購入してみた(前編)
中国の次世代光メディアの標準に「なりたい」EVD。なんだか2006年末に大セールをしているようだったので、思わず買ってしまったっ。吉となるか凶となるか今年初めの運試し。“虚”で“驚”だった2006年の中華IT
レノボがIBMのPC部門を買収!のようなインパクトはなかったが、さすがは中国。「なんじゃこりゃ」とのけぞるネタに困らない。そんな2006年の中国IT事情を振り返る。10年前の日本で考える現代中国の違法コピー事情
海賊版をなかなか駆逐できない中国。しかし日本も以前は同じ時期があったと言われている。それは事実なのか。今でもそうなのか?中国巨大市場を群雄割拠するPCメーカー
三国志でいえば「魏」「呉」「蜀」規模の中原の覇者となりうるPCメーカーから、奥地のみで勢力を拡大する「南蛮」のようなPCメーカーまで、中国には多くのPCメーカーが存在する。“中国人による中国人のための”ウォークマンを日本人が使ってみた
「中国生産」の「中国限定販売」ウォークマンがなんと“ソニー”からリリースされた。中国で売らんがためにに企画されたといわれるその実力とは。「揚天」に「旭日」──レノボ“中国”最新PCラインアップは面白い
レノボがIBMのPC部門を買収して1年が過ぎた。日本向けのオリジナルPC「レノボ3000シリーズ」をリリースするなど、ようやく自分らしさを出してきたレノボであるが、地元中国におけるラインアップはちょっと事情が異なるようだ。中国製携帯プレーヤーと「mtv」「amv」の謎に迫る
中国で都市の若者に人気の携帯MP3プレーヤーや現在“生産”急上昇中の携帯動画プレーヤーの事情について「亜細亜の突撃ライター」から入電。iPodもどきで日本でも知られるようになった「mtv」「amv」ファイルの話も紹介しよう。北京オリンピックのITインフラは開催に間に合うのか?
トリノオリンピックが終わった。オリンピックの運営には強力なネットワークインフラが必須だ。トリノのIT関連インフラは苛烈な要求に無事耐えたようだが、さて、2008年の北京はどうなのだろうか? 北京の通信事情を現地からリポートする。中国電信の系列企業が映画を無許可で配信?
中国のNTTこと「中国電信」(チャイナテレコム)の地方子会社数社が運営するサイトのコンテンツが、著作権法違反で北京の映画配信会社に訴えられている。しかし、この問題はこれだけで終わらない。中国は「海賊版」から逃れられるか
中国のPC事情を語るとき、どうしても逃れられないのが「違法コピー」という言葉。できることなら避けておきたいこの話題だが、これを知らずして中国を語るなかれ、ということでついに取り上げることに。こういうのを「虎の尾を踏む」というのだろうな。- 山谷剛史の「アジアン・アイティー」:バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.