中国復帰10年めの香港電脳事情:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(3/3 ページ)
返還後に「100万ドルの夜景」もだいぶ変わったと聞く香港。10年でどれだけ中国に染まったのか。電脳街からのリポート。キーワードは「水貨」だ。
大陸に“北上”する香港人、大陸に非正規輸出される水貨
香港には「北上」という言葉がある。地価も物価もべらぼうに高い香港に住まず、物価が安い広東省深センなどの、香港から離れた「北の方面」に住むことを指す。こういう言葉が普通に使われているくらいなので、中国本土と香港を通勤で行き来するのはもう当たり前で、朝夕は検問でチェックを受ける人の列で渋滞が発生するほどだ。
香港と中国本土を多くの人が日常的に行き来することで起こる問題がある。深センに移住した香港人が、自宅で香港のWebサイトの一部にアクセスできない問題のその1つだ。この種のサイトにはニュースサイトなども含まれるが、「中国的」論調のニュースサイトなら見られるわけで、不便で困り果ててしまうほどに深刻ではないらしい。
これより深刻な問題として、特に当局側に認識されているのが、香港から中国本土に人が移動するときに、手持ちの荷物の中に「密輸品」を入れて越境のチェックをすり抜けてしまうケースだ。こういう方法などによって、香港で安く仕入れて中国本土で安く販売される「非正規輸入品」が、中国国内のいたるところ、特に深センで多く流通している。中国ではこのような密輸品を「水貨」と呼ぶ。水貨はThinkPadのような高額ノートPCにとどまらず、携帯電話、デジカメ、PCパーツ、ゲーム機などあらゆるジャンルに及ぶ。
“水貨”問題で最近深刻になっているのが「メモリ」だ。中国のニュースメディア「第一経済日報」では、中国国内で販売されているメモリの50~60%が正式な手続きを経て輸入されていないと報告されている。ある都市の電脳街では非正規品の割合が9割以上にのぼるという。販売量から逆算すると2006年には930万個ものメモリが非正規品で入ってきていると第一掲載日報では算出している。実際、2006年5月に深センの越境ゲートで密輸をしようとした5人が逮捕されているが、彼らは1721個のメモリを隠し持っていたと報じられている。
水貨に適しているのはメモリだけではない。容積が小さい割に高価なCPUやHDD、各種ICチップの多くが非正規に持ち込まれる。深センの電脳街にはほかの地域の電脳街で見られない、ICチップだけを扱うフロアが存在する。そこのスタッフに話を聞くと「深セン市だけでなく、中国各地からPCの修理屋が訪れて、交換部品用のチップを買っていくんだよ」という答えが返ってきた。
そのフロアを訪れたのは昼時で、店員は皆、中国でおなじみの白い箱に入った弁当をカウンターで“堂々と”食べていた。ICショップで扱っている商品が正規輸入品なのか“水貨”なのかを即座に見分ける術はないが、香港に隣接する大都市深センが、中国本土の街であって香港とは別世界であることは、その光景を見ただけで分かるのであった。
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