「PCパーツの基板はダンボールですか?」──中国IT“偽造”事件簿:山谷剛史のアジアン・アイティー
全世界的に中国発「偽造」ネタがヒートアップ。気になって中国のIT関連記事もチェックしていると……、おおっと、こりゃ、すごいね。
冒頭からいきなりフォローしておきたい、中国“ニセモノ”事情
というわけで、世界中が中国産の偽造品で盛り上がるなか、中国では、“後日談”も盛り上がっているダンボール入り肉まんの話題ですら、日々のニュースの1つとしてさらりと流れていった。それもそのはず、中国庶民にとって食品偽装は日常茶飯事のことであって、全国ネットのCCTVをはじめとするTV各局は、食品偽装の現場やそのガサ入れの瞬間を頻繁に放送しているのだ。
中国事情をフォローすれば、偽装食品を口にしてしまう人は広い中国にいる膨大な人口のごく一部であって、ほとんどの人民の日常生活に影響するわけではない(ちょっとちょっと、そもそも偽造が頻繁に起こることが問題であるのでは? と筆者も言いたくなるが)。これから書くIT絡みの「偽造」についても、「これが中国のすべてではない」ということを、まずは念頭において読んでいただきたい。
中国ではThinkPadにニセモノ多し
メーカー製PCで最もニセモノを掴まされたという事例が多いのが、「昔IBM、今レノボ」のThinkPadだ。ThinkPadは、中国で最も人気のあるブランドといわれている。例えば中国の調査会社「易観国際」(Analysys International)が7月19日に発表した「中国ノートPCユーザー行為研究報告」によると、全体の29%がThinkPadを一番好きな「PCベンダー」としている(ThinkPadのベンダーはレノボなのだが、中国の統計調査では、ThinkPadとそれ以外のレノボ製品を分けて扱うケースが多い)。
ThinkPadは中国メーカー製PCやデル、HPといった海外メーカーの製品と比べて価格が高い。ややっこしいのは、「中国以外で販売されているThinkPadの価格に比べて、中国で販売されているThinkPadの価格は異様に高い」ことで、そのあたりの事情をThinkPadにあこがれる中国の富裕層はよく知っている。そういう心理を突いて、中国で保証を受けられない外国向けThinkPadを中国内に転売する業者も多い。このように、外国で販売されて中国で保証されない商品を「水貨」というが、中国語では広義の意味でこれまた「ニセモノ」となるのだ。
水貨を水貨として売るなら、購入するユーザーもそのリスクを理解しているからまだいい。問題は、水貨を正規品と偽装して販売する業者や水貨の中身を安いパーツに入れ替えて販売する悪徳業者が絶えないというところにある。「絶えない」という文字どおり、ThinkPadの販売にまつわる詐欺事件が数年前からPC雑誌の誌面で話題になる。
高級感に満ち満ちたThinkPadブランドと同じように、IBMブランドにもニセモノが横行する。IT系Webメディアの「天極網」が2006年1月に報じた記事によると、電脳街の小売店で販売されている「IBMロゴのついたブラックモデル」2.5インチHDDケースの50%、マウスの95%、外付け光学ドライブにブルーモデルの2.5インチHDDケース、USBメモリにいたっては100%がニセモノだったとされている。
2007年5月には、正規販売品だと思って買った2万元(32万円)のThinkPad X60が保証外の“水貨”であっただけでなく、レノボの修理センターで「マザーボードだけ海外のもの」であったことが、IT系Webメディアの「PCPOP」によって報じられた。
PCパーツの基板はダンボールじゃないでしょうね
ベテランの自作PCユーザーなら、表面をヤスリで削って別の製品名を刻む「リマークCPU」を想像するだろう。中国でもこういったCPUのリマーク品の話をよく耳にする。最近では、インテルとAMDのデュアルコア世代CPUでリマーク品が確認されたという話も聞こえてくる。
IT系のメディアではリマーク品情報を記事で紹介する一方、リマーク品対策を講じる企画もよく掲載されている。多くのメディアでは、ニセモノをつかまない基本として「バルク品ではなくリテール品を購入すること」と忠告しており「総代理店から買うのが最も安全な方法」と諭している。ただ、IT系Webページ「PCHOME」が2005年12月に掲載した記事では、ユーザーが電脳街のあるショップで「Sempron 2500+はありますか?」と聞いたところ、店員が「安いリテール品と高いリテール品のどっちが欲しい」と答えたという事例が紹介されている。
事例は少ないものの、HDDでもリマーク品が存在する。IT系Webページ「Enet」の2005年9月の記事で、新品のHGST製3.5インチ5400rpmのHDDを購入したところ、デバイスマネージャではパッケージに書かれた製品名とは異なる名前が表示され、試しにHD Tuneを実行するとすでに使用時間は900時間を越えていた、という話が紹介されていた。「HDD表面に貼られたシールの印刷は粗かった」と、購入者は報告しているそうだ。
フラッシュメモリもニセモノ話は多い。いささか古い情報になるが、2004年8月に出版された雑誌「消費電子世界」の記事によると、電脳街で売られているSDメモリカードのうち8割がニセモノで、同じSDメモリカードなのにパッケージが7種類あったという。最近でも2006年11月の「西域IT網」に掲載された記事で、四川省成都の電脳街で販売されているSanDisk製フラッシュメモリのうち4割がニセモノだったことが紹介されている。
さすがに、マザーボードやグラフィックスカードなどの「イタモノ」は、ニセモノが非常に少ないとされている。それでも「マイナーメーカーの粗悪品は買わない」というのが中国自作PCユーザーの鉄則だ。
自作関連でニセモノの話をよく聞くのがPC電源ユニットだ。とくに、デルのPCに搭載された電源ユニットに似せたニセモノが中国では多く出回っているそうだ。2007年4月にPCPOPは市場に出回る63機種の電源ユニットを一斉検証する記事を掲載している。そのうち3機種がニセモノであったことが判明した。
これも、実に中国的な事情であるが、「PCを修理に出して戻ってくると微妙にスペックダウンして戻ってくる」という話もよく話題になる。修理屋で少し安いパーツにすりかえるという、メーカーのサポートセンターで修理してもらう日本では考えられない話であるが、中国における「修理屋」は「中古屋」を兼ねる個人商がほとんどで、そこでは「故障品を売っているのではないか」「ニセモノのパーツで組み立てているのではないか」と疑念を持つ中国人は多い。
IT系Webメディア「走進中関村」の2007年1月の記事によると、PC関連のサプライ品でもニセモノは多いという。最も多いのがデジカメケースだ。中国の観光地へ行くと、「Cyber-shot」のロゴが貼られたデジカメケースを持ち歩いている人が多いが、これもほとんどがニセモノという。危ないことに、充電池や充電器にもニセモノが多いという。
日本メーカーが絡むところでは、「金華新聞網」の2007年7月に掲載されている「工商局、キヤノンやHPのニセモノ替えインクやドラム、トナーの販売現場を摘発」という話も出ている。互換カートリッジが存在するのに、純正品のニセモノも存在するという「いたれりつくせり」。フロッピーディスクや、各種光ディスクでも日本メーカーの成り済ましが依然として販売されている。
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