業界がチップセットで泣いた!:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
販売店やメーカーに甚大な打撃を与えたIntel 6シリーズチップセットの問題。打撃の本質を“内側”から解説する。
問題は「絶対にハズレない新製品」で起きてしまった
では、PCメーカーやマザーボードベンダーにはどのような影響を与えているだろうか。PC関連業界は、PC本体メーカー、周辺機器メーカーなどなど多くの企業が共生関係にある。メーカー製PCは買ってすぐ使えるが、増設メモリやHDDなどはサードパーティーの製品を採用することが多い。また、自作PCの市場では、異なるベンダーの製品を組み合わせて1台のPCを構成することが多い。
このように、PC本体メーカーの多くは、サードパーティーと共生関係にある。対応している周辺機器が充実していれば、PCそのものの取り扱いが増え、結果的に売上が伸びる。むしろ自分たちが弱い分野ではサードパーティーに情報を開示し、周辺機器の発売をお願いするPC本体メーカーも多い。
初回出荷数が多い製品であればあるほど、早いタイミングで周辺機器などを準備しておけば、相乗効果で売り上げは大きくなる。特にPCの中核であるCPUとマザーボードがセットでフルモデルチェンジする場合、ヒットするか分かりにくい新ジャンルの製品と違って“ハズレが少ない”とされている。まして、Sandy Bridge世代のCPUとIntel 6シリーズチップセット搭載マザーボードの組み合わせは、前評判も高かったこともあって、PC関連業界としては、「絶対にハズレない」千載一遇の機会と期待していた。
PC本体メーカーはSandy Bridgeに合わせた新製品のロードマップを用意し、サードパーティも同じタイミングで新製品の投入を計画していた。文字通り“要”のチップセットに問題が起こるとはおそらく誰も想定していなかっただろうし、想定していたとしてもリスクを回避する手段はなかったろう。
そうした意味では、売るものがなくなった販売店と同じように、PC本体メーカーの被害は甚大で、サードパーティーにとっても、PC本体が売れないことに伴なう売上の損失は大きなマイナスになる。
できることなら隠したい
メーカーにとって、リコールというのは大きな決断だ。株式を公開している会社であれば株価の下落に直結するし、営業担当は客先に頭を下げまくることになる。サポートセンターの電話は鳴りっぱなしになり、物流は混乱し、リコールの原因を作った担当者は社内から冷遇される。代替品の手配に関する責任問題が絡んでくると、話はさらにややこしい。
そのため、なるべく穏便に製品を回収して出荷数も絞ったうえで、市場に出回っている数がある程度少なくなったところでリコールを申請する策が取られる。今回のようなチップセットのリコールでは流通する製品の規模的に、このような方法は不可能だが、PC周辺機器であれば販売数は少なく、半年から1年という短い期間でモデルチェンジが行われるため、製品切り替えのタイミングに紛れさせることで、リコールせずとも製品を終息させることが比較的容易だ。あとは個体不良として対応することで、該当する製品を闇に葬ることができる。
こうした行為は担当者や部署レベルで行われることもあれば、実質的に企業規模で隠すことが試みられるケースもある。売上に与える影響が大きい場合、株主総会が終わるまで待ってからリコールといった手法が取られることもある。明らかな不具合があっても、交換対象となる代替品が入荷するまでは販売を続けるという話もある。
もっとも、最近ではインターネットで拡散される口コミによって、こうしたごまかしはできなくなってきた。従来であれば販売店からの苦情を「個体不良」ともみ消すこともできたが、インターネットの掲示板などで情報がユーザーに共有されることで、すぐ露見してしまうからだ。消費者は、購入前に必ずこうした掲示板を確認することが最低限の自衛策になる。ただ、長期間使っていて初めて発覚する不具合には、こうした掲示板もあまり効力がない。
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