アプリのビューワはもう古い?――ソーシャル時代の電子書籍のあるべき姿とは:たまねぎIT戦士の国際電子出版EXPO Report
先日行われた「第15回国際電子出版EXPO」内で、Webブラウザを用いた電子書籍ビューワを展示したボイジャー。なぜ「T-Time」から“転進”したのか、ボイジャーの萩野氏は同イベント内で行われたセミナーでその理由を語った。
7月7日~9日に東京ビッグサイトで行われた「国際電子出版EXPO」において、Webブラウザを用いた電子書籍ビューワ「Books in Browsers」を展示したボイジャー。そのボイジャー代表取締役の萩野正昭氏が、同イベント内で行われたセミナーで本の未来研究所 代表のロバート・スタイン氏と、これからの電子書籍のあるべき姿について対談を行った。
どのデバイスを使っていても同じ体験を
電子書籍の過去を振り返り、未来を語るというテーマで行われたこのセミナーは、ボイジャーの電子書籍に対する取り組みを振り返った後、ロバート・スタイン氏が、現在進行している「ソーシャルブック」プロジェクトについて紹介した。
映像や音声などのリッチコンテンツを取り込んだページをオンライン上で展開し、コミュニティーを形成することで、本をソーシャル体験ができる場所にする――これがロバート氏が語ったソーシャルブックプロジェクトの概要である。これはソーシャル時代の読書体験を示しているともいえるだろう。
このソーシャルブックを実現するための前提としてロバート氏は「各社独自のアプリやビューワを使うのではなく、あくまでブラウザで作品を読めるようにする必要がある」と述べた。iPhone、Android端末など比較的近年に登場したデバイスだけでなく、CD-ROMで電子書籍を作っていた時代ならばWindows用、Mac用など、ユーザーや時代によって環境やデバイスはさまざまだ。それぞれの環境に特化したビューワを使っていては、規格の違いなどから情報共有の妨げになってしまう。どのようなデバイスを使っていようとも、すべての人が同じ条件で、同じ環境で読書ができること、これこそがソーシャルな読書体験に必要な条件だというのだ。
ロバート氏は続けて、このソーシャルな読書体験、ソーシャルリーディングには以下のような4つの要素が存在すると述べた。
- 知り合いと本について語り合うスペースがあること
- 同じ本を読んでいる人のコメントにアクセスできること
- 書籍の内容に関する専門家の解釈が読めること
- 本の作者とコミュニケーションが可能であること
これからの電子書籍はこのような機能を軸に進化していくとロバート氏は話す。ただ、このアイデアは決して新しくはないと記者は考える。昨年、三井ベンチャーズとティーガイアが共同で開催した、次世代携帯電話向けのアイデアプランコンテスト「i*deal Competition 2010」で最優秀賞を受賞した「Layered Reading」に代表されるように、電子書籍の進化を考える上でソーシャルネットワークとの融合は多くの人が考えていたのではないか。しかし、今のところ機能として具体的に実装はされていない。
主な理由としては、日本国内ではデジタルコンテンツやソーシャルネットワークにおける著作権の法整備が不十分であることや、ソーシャルネットワーク上で文章の一部や作品の内容についての情報交換がされることで、書籍の売り上げが下がる可能性があるという懸念から、出版社がソーシャルネットワークの活用に慎重になっていたということが挙げられる。だが、ソーシャルネットワークとの融合こそが、電子書籍が人々の生活の中に受け入れられるためのカギなのではないだろうか。ソーシャルブックプロジェクトの話は、多くの人が望んだ“未来の電子書籍”が実現へと動き出した、という印象を受けた。
EPUB 3.0は“フォーマット世界共通化”の象徴
ロバート氏のソーシャルブックプロジェクトの話を受けて、萩野氏は「ソーシャルリーディングが実現するためには、ブラウザベースのビューワにシフトすること、そしてフォーマットの規格を全世界で共通とする必要がある。EPUB 3.0はその象徴だ」と続けた。
フォーマットを共通化する際には言語や文化の違いが障壁となる。例えば日本人は縦書き文章を読むし、マンガは右上から左下に読むという文化がある。「こういった言語や文化の違いを認めた上でフォーマットの共通化を行う必要がある」と萩野氏は述べた。EPUB3.0に対応した上で、縦書きやルビなど日本語独特の表示にも対応したビューワを目指す――ボイジャーによる理想の電子書籍ビューワの“探査”はまだまだ続きそうだ。
※初出時、キャプションの内容に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(7/13 16:22)
「日本の電子書籍のフォーマットは長い間シャープの『XMDF』とボイジャーの『.book』に分かれていて『シャープの壁』、『ボイジャーの壁』を作っていた。だが、これからはそういった壁を取り払って、世界基準に合わせる必要がある」と萩野氏は述べた。これに続けて、「多くの人が同じ読書体験ができる要件が達成されることで、電子本が広く流通する基盤が現在作られようとしている」とも述べている。
これまで.book形式に対応したビューワ「T-Time」を展開してきたボイジャーがなぜ今になってWebブラウザベースのビューワに“転進”したのか。このセミナーの中で萩野氏は新ビューワ「Books in Browsers」の狙いを語ってくれた。これからは.bookに固執せず、国際的な規格やブラウザベースのビューワにすることで、より多くの人に電子書籍の読書体験、そしてソーシャルな読書体験を提供していく、というボイジャーの所信表明のようにも思える。
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