あなたが知らない過剰在庫の世界――作りすぎた製品はどう売りさばかれるのか?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
メーカーが下請け先に製品の製造を依頼する場合、一定の数量を買い切ることが契約書に明記される。メーカーはどれだけ製品の売れ行きが悪くても、その数量は必ず仕入れなくてはならないため、あの手この手を使ってさばかなければならない。
オプションとのセット販売は“一石三鳥”?
「既に全数出来上がっている」場合とは、製品の生産が既に完了し、パッケージに封入された状態で納品も終わり、倉庫に積まれている状態の差す。こうなると、今さら仕様を変更するわけにもいかず、取れる手段は限られる。
こうした中、最も無難な方法は「値下げ」だ。売価を下げることで、ユーザーが手に取りやすくする。特に珍しくもない、ごく一般的なワザだ。
価格変更による拡販は、現場ベースで簡単に行える対策ということで多用されるが、そもそもその製品を「欲しい」と思っているユーザーが存在していて、初めて成立する。製品に魅力がなく「いらない」というユーザーが多くを占めている場合、価格を下げたところで効果を上げることはできない。大幅な値引きが難しい場合はなおさらだ。
そこでメーカーが用いるのが、オプション品やソフトウェアとのセットで販売する方法だ。もとの製品になかった新しい価値を付与し、さらに価格もより割安にすることで、ユーザーに「これなら買ってもいいか」と思わせる。オプション品も併せて処分できれば、メーカーとしてはまとめて在庫が減らせて一石二鳥だ。
特にハードウェアなど原価が高い製品は、原価が安いソフトウェアとセットにすることで、単体では不可能な大幅割引も可能になる。もちろん実際にはそううまくいかないことも多く、拡販のために仕入れたソフトウェアともども過剰在庫になったという笑えない話もあるので、仕入れのセンスが問われるところだ。
ちなみに、ここまで見てきた販売策は、資金繰りなど切羽詰まった事情が背景にある以外に、期末の棚卸しがきっかけになっていることが多い。棚卸しによって在庫があまりにも過剰ということになると、たとえ当面の資金繰りに影響がなかったとしても、会社の経営が不健全だと見なされてしまうからだ。
こうした場合、前述のセット販売は、ある“抜け道”として機能する。それは、2つの製品を1つのパッケージに合体させる際、その梱包作業を代行してもらうという名目で外部の協力会社に製品をいったん部材として買い取らせ、合体させた製品を再び買い戻すというワザだ。つまり棚卸しのタイミングよりも前に製品を買い取らせ、棚卸しが終わった後に買い戻すことで、帳簿上はいったん在庫を売り切ったように見せるわけである。
法律的にはかなりグレーなワザであり、大々的にやると大目玉を食らいかねないが、メーカーからするとセット販売が決まった単体製品というのは、あくまでもセット型番を構成する1つの部材でしかなく、どちらにしても帳簿上は従来型番での在庫を消し、新しいJANコードを取得したうえで新規製品として在庫に計上する作業が必要になる。
ここで外部の協力会社をクッションとして挟めば、棚卸し前に在庫が突然消え、そして棚卸しが終わってから別型番で在庫が復活する、といったことが可能になるわけだ。
一般的に、メーカーが決算対策で特価品を出すのは、あくまでも決算前という印象が強いが、上記の方法であれば、決算後に初めて製品が入庫することから、店頭に出回るのはむしろ決算後のタイミングになる。こうした例外的なケースもあることを知っておけば、よりお得な製品を手に入れたり、不要な製品を買わずに済むのに役立つだろう。
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