購入者が知らない、店頭サンプル品をめぐる醜い争い:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
量販店店頭における製品のサンプル展示は、通販サイトへの対抗策という意味もあり注力する店が増えつつある。そこで用いられるサンプル製品は基本的にメーカーが負担するわけだが、現場ではその伝票処理を巡ってさまざまなせめぎ合いがある。
メーカー関係者経由で製品は安くゲットできる?
ところで、読者の中にはこうしたメーカーに知り合いがいて、製品を安く買わせてもらったことがある人もいるかもしれない。メーカーによっては、社員やその関係者向けに自社製品が安く購入できるシステムを福利厚生の1つとして用意しており、それを使えば1割引や2割引といった価格で購入できたり、あるいは自社の通販サイトで通常よりも安く購入できたりするクーポンコードを配布している場合がある。
もっともこの場合、せいぜい1割~2割引といった、わずかな値引きにとどまるのがオチである。そもそも社員の家族だけならまだしも、知り合いともなると相当な人数がいる。アウトレットであればともかく、原価を切るか切らないかのような大盤振る舞いで、社員の知人に現行製品を提供するような企業はないだろう。
しかし実はちょっとした裏ワザがある。もしそのメーカー在籍の知り合いが営業部に所属しているか、もしくは営業部に顔が利く社員であれば、そうした福利厚生の仕組みを経由せずに安くできないか、聞いてみる手がある。意外とすんなり、福利厚生による値引きを超える大盤振る舞いで、製品を安価にゲットできるかもしれない(嫌がられる可能性もあるが)。
その理由は、営業部というのは、社内で唯一、値引き処理ができる部署だからだ。他の部署はそもそも伝票を切る機会がないため、製品を安く出荷したいとなっても、自分で処理を行えない。しかし営業部であれば、日常的に値引きの処理を行っているので、上長の許可を得てスポットで値引きを行える可能性がある。
実際のところ、福利厚生を目的とした社員販売の仕組みがないメーカーでは、他部署の社員がこのように営業部の知り合いのツテを使って、製品を安く手に入れているケースがある。営業部の社員からするとちょっとした手間ではあるものの、少なからず自分の売り上げにはなるうえ、また場合によっては自分が担当している販売店を経由して売り上げを立てることで、販売店に恩を売ることもできる。
どのくらい安くできるかは営業部の社員および上長の裁量によるが、一律10%引きといったシステムに比べると、期待が持てることは間違いない。
ただし、知恵が回る方はここまで読んで既にお気付きだろうが、こうした要求がエスカレートして、前述の悪辣(あくらつ)営業マンのような手口を使い、店頭向けに手配したはずの展示サンプルを横流しさせるような事態にまで発展すると、これはもう完全な横領だ。
もしそれがハードウェアの場合、シリアルナンバーが控えられていて、サポートを受ける際に足が付いても不思議ではない。くれぐれもそのような強要をしてはならない。
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