新規参入が「モノはいいけどサポートは残念」になる理由:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
あるジャンルでは名の知れたメーカーがいきなり新ジャンルに進出したり、未知のメーカーがある日突然ラインアップを一斉投入し、驚かされることがある。こうしたケースではたとえ製品そのものがよくできていても、思わぬところで足をすくわれることも多い。
「前の会社と同じやり方」が引き起こすトラブル
もっとも、こうして順調な船出を切ったのもつかの間、かなり高い確率で失敗に結び付く、お決まりのパターンがある。それは主に、会社の事業規模に依存する問題だ。
ここまで見てきたような、あるジャンルの経験者が新規事業を立ち上げるパターンの多くは、自ら会社を興すケースを除けば、大企業から中小企業への転職が前提になる。そこで「前の会社ではできていたのだから、今回もできるだろう」と思い込んでビジネスを進めることで、思わぬトラブルを引き起こすわけである。
典型的なパターンを2つ挙げよう。1つは店頭系の営業で起こりがちな問題だ。同じ販売店に出入りする営業マンでも、大手メーカーと中小メーカーではやっていることは大きく異なる。大手はバイヤーへの提案活動が中心で、雑務は新人やバイトにやらせることが多い。製品のジャンルも細分化されており、自分が担当しているジャンルに絞って提案が行える。
一方、中小の場合、新人やバイトに振るような雑務も1人で行わなければならず、朝から晩まで返品処理などに追われ、提案活動がままならないケースが多い。また1人の営業マンが全ジャンルをカバーしなくてはならず、場合によっては店頭系と法人営業を兼務していたりするので、彼らに新ジャンルの製品を売り込んできてくれと頼んでも、遅々として導入が進まないことがよくある。
大手メーカー時代に第一線でバリバリやっていた営業マンが陣頭指揮を取り、何とか店頭に製品を導入することに成功しても、このような営業体制なので、販売後に何らかのトラブルがあった場合の対応は、どうしても後手に回りがちだ。結果として「売ることには熱心だが、その後のサポートは大手に比べて雑」という、ありがちなスタイルが出来上がる。
もっとも、これはまだマシなほうで、中には開発側のスタッフが巻き込まれるケースも出てくる。法人系のセールスでは、客先で何らかのトラブルがあった場合、専任の営業マンがまず現場に足を運んで原因の切り分けをし、必要な場合のみ技術的に詳しい本社の開発スタッフなり、サポート部門に解決を依頼するのが一般的だ。
しかし中小だとそうはいかない。新規のジャンルで何らかのトラブルが発生すると、そのジャンル専任ではない中小の営業マンは原因の切り分けすらできず、「この製品は詳しくないから開発に対応を任せよう」と丸投げしてしまう。結果、何かトラブルが起こる度に開発スタッフは本業そっちのけで全国を飛び回る羽目になり、開発のスピードは遅延する。
もちろん「それはわれわれの業務ではない、営業側で対応してくれ」と突っぱねることも不可能ではないが、そうなると営業がそのジャンルの製品を積極的に売らなくなりかねないので難しい。中小ではどの製品に注力するかは、営業マンの裁量に委ねられる部分が大きいからだ。結果、営業も開発もモチベーションが下がり、おまけに客先からは動きが遅い、サポートが悪いと揶揄(やゆ)されることになるわけだ。
「モノはいいけどサポートが……」を回避するには
以上のように、よい製品を安価に作ることができても、それを支える販売、およびサポートの体制が不十分なことから、「モノはいいけどサポートが……」といった評判が出るようになるのが、新しいジャンルに乗り出したメーカーによくありがちなパターンだ。
もちろん会社自体が負けず劣らずの大手で、営業もサポートも新しいジャンルをすぐさま受け入れる余地があり、問題が起こらないこともあるが、そうした例はまれだ。特に、新ジャンルを任された責任者がこれまで1つの会社でしか働いていない場合、最初の会社のやり方が当たり前という勘違いから、こうしたミスを犯しがちだ。
従ってユーザーとして、新興メーカーから発売された製品について検討するときは、たとえ品質や機能、価格などの評判がよくとも、購入後のサポートを要する製品については、より慎重になる必要がある。口コミなどでアフターサポートの評判を確かめるか、あるいは製品サイクルが1周するまではそのメーカーの製品は見送ることが、せめてもの自衛策となるだろう。
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