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驚異的なバッテリー駆動時間でPCを変革か SnapdragonがWindows 10にやって来る日鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/2 ページ)

LTE内蔵のモバイルPCが増えつつある中、開発が進んでいるSnapdragon 835搭載Windows 10 PCでは、さらに「驚異的なバッテリー駆動時間」という付加価値を得られそうだ。

 Microsoftが2016年12月に開催した開発者向けイベントのWinHEC Shenzhenにおいて、「QualcommのSnapdragonプロセッサ上で動作するフル機能のWindows 10」が発表されてから1年近くが経過した。これは、ARM系SoC(System on a Chip)のSnapdragonで、モバイルOSのWindows 10 Mobileではなく、PC向けフル機能版のWindows 10を(x86エミュレーションで)動かしてしまおうという計画だ。


MicrosoftとQualcommの提携で実現したSnapdragon 835搭載Windows 10 PC

 2017年10月17日に配信が開始されたWindows 10の大型アップデート「Fall Creators Update(1709)では、新機能の1つに「ARM64のサポート」があり、既にOSのソフトウェア的には準備が整っている。

 このARMプラットフォーム向けのフル機能版Windows 10については、2017年6月に台湾で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2017において、QualcommがSnapdragon 835を搭載したリファレンスプラットフォームでの動作デモを披露。現在市販されているx86ベースのWindows PCと比較しても遜色ないパフォーマンスを実現しているとアピールした。

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COMPUTEX TAIPEI 2017開催時に公開されたデモ機。こんな姿だが、既に現状のノートPC並のパフォーマンスを確保し、外部ディスプレイ出力によるデスクトップ操作も実現していた

 これに対し、PC向けプロセッサでほぼ独占的なシェアを獲得しているIntelは、ARMプラットフォーム上でのx86エミュレーションについて、特許をバックグラウンドにした法廷闘争をちらつかせており、むしろその実力が本物であることの裏付けだと言われている。

 さて、このSnapdragon 835搭載のWindows 10 PCについてだが、ASUS、HP、Lenovoがローンチパートナーとして名を連ねている一方、Microsoftがデッドラインとしている2017年第4四半期(正確には「最初の発表から1年以内」)に製品発表が間に合うような動きが現状で見られないなど、まだ不透明な部分も多い。

 今回はその進捗や疑問について、10月中旬に香港で開催されたQualcomm主催イベントである4G/5G Summitの報道関係者を交えた説明会でコメントが得られたので紹介する。

いまだ製品の姿は見えず 実装形態や出荷時期はパートナー次第か

 説明会に登壇したのは、米Qualcomm Technologies製品マーケティング担当バイスプレジデントのドン・マグワイヤ氏、米MicrosoftでWindowsグループプログラムマネジャーのピート・バーナード氏、EE and BTで技術サービス担当ディレクターのトム・ベネット氏の3人だ。


驚異的なバッテリー駆動時間について説明する米MicrosoftでWindowsグループプログラムマネジャーのピート・バーナード氏(中央)。左はEE and BT技術サービス担当ディレクターのトム・ベネット氏、右はQualcomm Technologies製品マーケティング担当バイスプレジデントのドン・マグワイヤ氏

 Snapdragon 835搭載PCはいわゆる「Always Connected PC」と呼ばれるカテゴリーの製品で、「LTEモデムとeSIM(組み込み型のSIM)を搭載したインターネット常時接続が可能なPC」というコンセプトで開発されている。この点は4G/5G Summitの基調講演でも強調されていたが、実際の製品化においては「eSIMは必須ではない」(Qualcomm)というコメントもあり、Microsoftの公式見解と割れている。


「Always Connected PC(常時接続PC)」というMicrosoftが掲げた新しいPCのコンセプト

 この疑問をMicrosoftのバーナード氏にぶつけたところ、同社としては「LTEモデム+eSIM」を(携帯電話網との通信に必要な情報を書き込むプロビジョニングを容易にする)Always Connected PCという形で定義しているが、「実際の製品提供形態はパートナーの戦略や判断による」という形で、必ずしもeSIMが必須でない点を認めている。

 ちなみに、MicrosoftがうたうAlways Connected PCに該当する製品としては、VAIOが既に対応製品の「VAIO S11」と「VAIO S13」を2017年9月に発表し、他社に先駆けて国内販売を開始しているが、いずれもIntelのx86プロセッサである第7世代Coreを採用したモバイルノートPCだ。SIMロックフリー仕様(microSIMを利用)でLTEモデムを内蔵し、Windows 10標準機能のプリペイド型データプラン(Windowsストアで購入)を利用できる。

【訂正:2017年11月5日午後2時15分 初出でプロセッサの表記が誤っていたのを訂正しました】


Always Connected PCに該当するモバイルノートPCの「VAIO S11」と「VAIO S13」

VAIO S11/S13には、契約不要で必要なときに必要なぶんだけプランをWindowsストアから購入できる「Windows 10データプラン」対応SIMが付属している

 一方、Snapdragon 835プラットフォームにおけるAlways Connected PCの条件は、「モデムチップを内蔵している」という点のみで(Snapdragonそのものが通信機能を持っている)、eSIMかどうかは各OEMならびに、製品が販売される各国や各キャリアの状況を見て逐次変化することになるようだ。

 つまり、同じメーカーのハードウェアであっても、国やキャリアの違いによってその通信サービスの部分が大きく変化する可能性があるというわけだ。

 同様に、説明会では「本当に2017年内に製品提供が可能なのか?」という質問もあった。バーナード氏(Microsoft)とマグワイヤ氏(Qualcomm)はともに「MicrosoftとQualcommではそう考えている」と答える一方で、「最終的な判断はパートナーの戦略による」ともコメントしており、両社の公式見解とOEMの実際の動きとの乖離(かいり)がある可能性も認めている。

 これは筆者の分析になるが、米国の商戦期にあたるホリデーシーズンに製品を投入するためには、少なくとも10月中には販売店や関連パートナーへの通知が行われ、11月初旬までには発表と販売が始まらなければ間に合わない。現時点の動きから判断する限り、年を越す可能性が非常に高いと推測する。

 11月初旬から毎年恒例のイベントであるCESが行われる1月初旬に、関係各社に新たな動きがあるかに注目したい。

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