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Arm版Windowsがパワフルに動く「Snapdragon 8cx」で「Windows on Snapdragon」は離陸するか鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(3/3 ページ)

12月にハワイで開催された米Qualcommの「Snapdragon Tech Summit 2018」において登場したのが、PC向けSoCの最新版「Snapdragon 8cx」だ。この情報を含め、Windows+Armのエコシステムに関する最新情報をお届けする。

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エンタープライズとこれからのWindows on Snapdragon

 さて、今回の目玉の1つはWindows 10 Entepriseへの対応だ。初代Windows on SnapdragonのPCでは「一般コンシューマー向け」をうたいつつも、性能に比して10万円超の中途半端な価格帯、展開地域や販売チャネルの不足など、さまざまな要因でプッシュするには“弱い”製品だった。

 パフォーマンスやアプリケーション対応上の問題から「プロシューマー」と呼ばれる層にリーチできなかったこと、そして台数をまとめて納入可能で、現在PC市場を買い換え需要で後押ししているエンタープライズ分野へ訴求できなかったことが普及を妨げてきた。その意味で、今回の8cxの登場は普及のための一歩をようやく踏み出した段階にある。


Snapdragon 8cxでの大きなトピックは、Windows 10 Enterpriseに対応したことだ

 ただ、Windows on Snapdragonの取り組みを積極的に進めるMicrosoftの思惑としては、この製品ラインをエンタープライズ中心に展開するのではなく、あくまで「数ある製品ラインアップの1つ」として市場全体に訴求することにあるようだ。

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 米MicrosoftコーポレートバイスプレジデントでAlways Connected PC関連事業全体を見ているエリン・チャップル(Erin Chapple)氏は「MicrosoftがAlways Connected PC(Windows on Snapdragon)で描いているロードマップはより広大なもので、エンタープライズ対応はその1つに過ぎない」と述べている。

 同時に普及までの道のりが長いことも認識しており「短期的な目標よりも、より長期的な視点での普及や展開を考えている」と指摘する。現状のWindows on Snapdragonの評価が低くとも計画を中断することはせず、今後も計画通り製品を投入し続けていくというわけだ。今回の8cxもまた、あくまで「Windows 10 Enterprise対応が行えた製品の1つ」という位置付けに過ぎない。


米Microsoftコーポレートバイスプレジデントのエリン・チャップル氏

 こうしてみると、Windows on Snapdragonの次のステップが見えてくる。8cx登場後も、このPC向けのSoCラインアップを8cxのみに集約することをQualcommはせず、併存する形で提供する。

 ある情報源によれば、Qualcommは過去のSoC製品についても機能改良を加える形で引き続きOEM提供しており、例えばSnapdragon 845のセキュリティー機能を強化したバージョンが2019年にも市場投入されるという。同様に、ニーズさえあれば8cxの15Wよりもさらに高いTDPの製品を投入する可能性もあるだろう。Intelプロセッサの例でいえば、YプロセッサにUプロセッサときて、さらにHプロセッサに該当する製品がそろうという流れだ。

 重要なのは、Windows on Snapdragonが投入されるのは単一市場向けではなく、これまでWindowsがカバーしてきたさまざまな領域を広く同SoCでカバーすることにある。必ずしもIntelやAMDが担ってきたすべての領域を置き換えることは考えていないとは思うが、適用範囲を今後も時間をかけて増やす。その意味で、今後も数年先を見据えつつ、Windows on Snapdragonの動向を見定めてその付き合い方を考えていく必要があるだろう。


PC向けSnapdragon SoCのロードマップ。製品ラインの拡大に主眼がある

(取材協力:クアルコムジャパン

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