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Facebookが始める暗号通貨「Libra」 SNSに財務データは結び付けられたりしない?ITはみ出しコラム

Facebookをはじめ、28社が参画する新しい暗号通貨「Libra」。個人情報の取り扱いでさまざまな問題を起こしてきたFacebookですが、Libraを通じた財務情報の取り扱いは信用していいのでしょうか。

 米Facebookが6月に発表した新たな暗号通貨「Libra」が注目を集めています。Libraのお金を扱うウォレット(銀行の口座みたいなもの)を開発・提供するのは、Facebookの子会社Calibraです。

 Calibraのデビッド・マーカスCEOは、2008年にモバイル決済サービスのZongを立ち上げ、2011年には当時既にeBay傘下になっていたPayPalに買収されてそこの社長になり、2014年にFacebook入りしたという、昔から電子決済畑を歩いてきた人です。2017年12月から米大手仮想通貨取引所Coinbaseの取締役も務めています。


Calibraのデビッド・マーカスCEO

 Facebookでは主に「Facebook Messenger」を手掛けていましたが、昨年8月に「ブロックチェーンの研究をする」と言って社内ベンチャーを始めたのが、Calibraのベースになっています。

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 Libraはビットコインなどの仮想通貨と同様にブロックチェーンを採用していますが、ブロックチェーンの特徴の1つである分散型ではありません。Facebook、MasterCard、Visa、PayPal、Stripe、eBay、Uber、Lyft、Spotifyなど28社が参加するLibra Association(Libra協会)だけが取引記録を扱えます。


Libraの参画企業

 協会には今後参加者が増えていく予定(2020年のサービス開始時点には100社が目標)です。Libraで使うお金は、協会参加条件の1つ、最低1000万ドルの出資が元手になります。100社が出資すれば、10億ドル(約1100億円)です。

 マーカスCEOは最近のブログで、将来的には分散化していくつもりだが、立ち上げ段階ではネットワークの整合性を保証するためにも、専門知識のあるメンバーで始める必要があると説明しています。そうしないと、他の仮想通貨のようにマイニングできる人たちにパワーが集中しちゃったりするでしょ、と。

 Libraはマイニングできません。投機目的の仮想通貨ではなく、ブロックチェーンで安心して使える安定した通貨になることを目指しています。Facebookの野望はLibraによる「financial inclusion(金融包摂)」なのです。

 なんて、実は「包摂」の読み方も意味も知らなかったんですが、「ほうせつ」と読んで、意味は「一定の範囲の中に包み込むこと」だそうです。つまり、金融包摂とは、これまで世界で貧乏すぎて銀行に口座も作れず、基本的な金融サービスが使えなかった人でも使えるようにすること、です。


Libraのサイトには「お金は世界中どこにでも、SNS並の手軽さと安さで遅れるようになるべき」とあります

 日本語でも公開されているホワイトペーパーには、Libraのミッションは「多くの人びとに力を与える、シンプルで国境のないグローバルな通貨と金融インフラになる」とあります。

 Libraは、スマートフォンと接続環境とわずかな現金があれば、誰でもCalibraのウォレットを持って送金や買い物、公共交通機関の利用ができる世界を目指します。


Libraの利用イメージ

 誰でも簡単に始められる、グローバルで便利な通貨。素晴らしい構想です。

 でも、ウォレットを作るためには、もう1つ必要なものがあります。それは、政府発行の身分証明(ID)。日本でサービスが使えるようになるとしたら、恐らくマイナンバーということになるでしょう。個人データの扱いでは悪名高いFacebookが関わるサービスにマイナンバーを教えて大丈夫なんでしょうか。

 Facebookは、世間がそんな疑問を持つことは百も承知で、「ソーシャルデータと財務データの分離を保証する」ために、Libraの運営はFacebookも1参加者になるLibra協会がやるし、ウォレットは独立子会社のCalibaが運営するから大丈夫、と言ってます。

 Libraの利用履歴は「ユーザーの許可がなければ」協会のメンバーだって勝手に使えないですから、と強調してます。

 でも、この「ユーザーの許可がなければ」が心配なところ。これまでも、ユーザーが利用規約を熟読する前提で話をしてきたFacebook。ユーザーが自覚しないうちに許可してしまう作りになっていないといいんですが。

 日本で使えるようになるかどうかも今のところ分かりませんが、使えるようになったら便利そうなLibra。今から、便利さの誘惑に負けてこれ以上Facebookに自分の情報を明け渡していいものかどうか悩んでいます。私の個人情報なんて、それほど大事なものでもない気もしたりして。

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