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AppleとGoogleが協力した新型コロナ対策「接触追跡」とは何か?ロックダウンを繰り返さないために(2/4 ページ)

新型コロナ対策でAppleとGoogleが手を結び、Bluetoothベースで濃厚接触の可能性を検出するプラットフォームを共同で開発する。その背景を追った。

世界に広まりつつあるContact Tracing(接触追跡)とは何か?

 さて、ここで世界の政府機関や公衆衛生機関による接触追跡技術開発とは具体的にどんな動きなのかを解説したい。

 この接触追跡の動きを世界に一気に広めたのは、政府内にGovTech(政府のためのテクノロジー)という名目で数千人のスタッフを抱えるシンガポール政府による「TraceTogether」というアプリの発表だ。

 3月20日に発表されたこのアプリは、既にApp StoreとGoogle Play Storeで提供が始まっている。スマートフォンに、このアプリをインストールしたユーザーAとユーザーBが接触すると何が起きるのか? ちなみに、このアプリでは半径2メートル以内に30分間以上いると「接触」したとみなす設計になっている。

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  • 01 アプリをインストールした両者のスマートフォンが、Bluetooth技術を使って双方が近くにいることを認識し、アプリ内に記録する
  • 02 その際、プライバシー保護のために、ユーザーAとBが誰なのかを特定する情報(IDや電話番号などは一切記録しない)、どこで接触したのかといった位置情報も記録しない
  • 03 多くの接触が起きた場合、そのことがシンガポールのMOH(保険省)に通知され、感染拡大についての対策を早期にとり始めることができる

 日本で新型コロナウイルス感染爆発の発生が他国と比べて遅かったのは、厚生労働省のクラスター対策班の活躍によるおかげで、このことは今や世界中に知れ渡っている。

 ある程度の感染爆発が起きるたびに、対策班がそれがどこで発生したクラスターかを詳細に追跡してきたが、新宿などの夜の町といったクラスターの発生場所によっては、場所の詳細や誰が一緒にいたかなどを話すことをためらう人も多く、詳細な追跡が難しくなっていた。

 もし、人々のこうした接触も、プライバシーを守った形で記録し、あくまでも感染拡大に向けた対策の情報として活用できたら、というのがこのアプリの狙いだ。

シンガポール政府によるTrace Together発表の様子

 同様の接触追跡アプリは、他の国でも採用の動きが広まっている。

 4月第1週には、英国のNHSX(国民健康サービステクノロジー)が同様のアプリの開発を進めていることを明らかにした。4月9日にフランス政府は、EUが定めた厳しい個人情報保護の基準を守った「Stop Covid」と呼ばれるアプリの開発を進めていることを表明している。

 米国でも、2月末からCovid Watchという同様のアプリの開発が進められているが、それらに加えてマサチューセッツ工科大学(MIT)が「Private Kit」と呼ばれるアプリを開発している他、既に3つの州政府がPrivate Kitの採用を発表している。

 ここ日本でも、国内最大のCivicTechの組織である「Code for Japan」が、シンガポールのTraceTogetherに基づいた接触追跡アプリの開発に向かって動き始めている(4月11日12時時点では、まだプロジェクトのためのWebページなどは立ち上がっていないが、プロジェクトを進めるべく会議は行われているようだ)。

 ただ、特にプライバシー保護には厳しいiOSなどでは、特定のアプリがユーザーの知らないところで行動を追跡するようなことがあると、そのことをユーザーに確認する機能などが組み込まれており、これがせっかくの接触追跡を中断してしまうこともありえる。

 今回、AppleとGoogleの両社が「助け合いの精神のもと、GoogleとAppleは政府と保健機関による感染拡大を防ぐ活動を支援すべく」として発表した取り組みは、そうした制限をなくすための取り組みだと考えられる。

 両社の取り組みについてCode for Japanの関治之代表理事に問い合わせをしたところ、以下の回答をもらった。

 「Code for Japanでも、関係各所の意見を聞きながらIT企業やエンジニアの有志でコンタクトトレーシングのアプリを開発しています。シンガポールのものをはじめ、各国で作られている同様のアプリケーションでは、スマホがスリープした時などにAndroidと通信できなくなるなどの制約があったため、この提携は喜ばしいことです。5月中旬にAPIがリリースされるとのことなので、でき次第組み込んでいきます」

 次に、なぜ接触追跡が重要なのかを考えよう。

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