5つの視点で振り返る「Apple Watch」のすごさ:林信行が読み解くApple Watch5周年(4/5 ページ)
Appleのスマートウオッチ「Apple Watch」が、2020年4月で発売5周年を迎える。登場前と登場後で何が変わり、これからどこへ向かうのか。林信行氏が解説する。
一番大事な機能は?
Apple Watchには、たくさんの使い方がある。筆者の印象では、実はApple Watchが発表された直後が一番、バリエーション豊かな使い方が議論されていた。米国では一部ホテルで、Apple Watch(内のNFC技術)が部屋の鍵として利用できた。
自動車の中でいち早く対応をうたったBMWの電気自動車、i3ではドアの開閉や充電状況の確認ができた。配車サービスやピザの出前の手配ももちろんだ。
JALもいち早くフライトの遅延などを確認するアプリを出しており、今では飛行機もApple Watchに表示したQRコードで搭乗する姿は世界中の空港で当たり前に見かける。
Suicaに対応したおかげで、日本ではApple Watchで電車に乗る人も少なくない。
スマートホームやiPhoneのカメラ機能をApple Watchからリモコン操作する使い方、ゲーム、学習、ボイスレコーダーなどなどだ。
だが、今も5年前も変わらず、この製品の最大の価値は通知機能にある。
Apple Watch開発の中核にあったのは、スマホ依存を減らすことだ。多くの人が、スマホにメールやメッセージが届いた通知を表示される度に、スマホを取り上げてしばらくいじりつづけることで、世の中にはスマホ依存なる言葉が生まれた。こうした現象を生む一端を担ったことに責任を感じていたAppleは、通知をApple Watchに行い、iPhoneを見る時間を減らそうとしていたのだ。
腕時計は画面が小さくて見づらいし、腕を30秒も持ち上げていると疲れてくるので、Apple Watchでは人々の情報獲得意欲が消極的になることは計算済みだ。
その上で、できるだけ情報を受け取る不快感と、情報に対する執着を生まないような体験を生み出した。心地よい通知音を作り出し、これまでに感じたことのない優しい通知振動を生み出すTapticエンジンを発明した。さらには一切の操作をせずに、通知の概要を確認し、さっと元の仕事に戻れるグランス機能なども用意した。
iPhoneはアプリ次第で、多様な趣味や本格的に仕事をこなせるパワフルなツールだった。これに対して、そのiPhoneとペアリングして使う分身のようなApple Watchは、多彩なアプリがあるにはあるが、むしろ使い過ぎないことを美徳とした、全く新しい概念のデジタルツールに仕上がっていた。
筆者の例で言うと夕景の写真を撮るのが好きなので、日の出や日没の情報、さらには海外出張中に日本の時間を確認するためのコンプリケーション(小情報)を表示することはあるが、あとは基本通知と、音楽再生の制御の他は、何もしないでも勝手に計測されるアクティビティーの機能くらいしか使っていない。それでも十分に恩恵を感じる。それがApple Watchだ。
使ったことがない人でも、街中に出ればApple Watchを身に付けている人を見ないことはないと思うが、彼らがずっと時計の画面ばかりをのぞき込んでいないのは、そういう理由にある。
ちなみに筆者は、Apple Watchを使い始めたのをきっかけに、そもそも1日に受け取る通知が10件程度に収まるように通知の断捨離を行った(「これはいらない」と思う通知を受ける度に、そのアプリの通知をiPhone上でオフにし続けた)。これによりiPhoneそのものの利用も快適になった。
Apple Watchは今、このコロナ禍でも問題になっている「情報中毒」を見直し、情報ダイエットを促してくれることにこそ最大の価値がある。
この5年間を通して、iPhoneに頼らず通信ができるようになったり、Apple Watch上で動くApp Storeが登場したり、画面の常時点灯も可能になったが、この部分はそれでも変わっていないと思う。
医療費削減に積極的で、日々の生活の中での健康維持に着目している日本以外の国では、このモデルから搭載されたECG機能を使って心電がとれるようになっている。機能そのものは既に日本語化済みで、政府が認可さえすればすぐにでも使える状態になっているが、リリースから1年半経った今でも、まだ国内で使えていない
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