Appleが“地球の未来を変える2030年までのロードマップ”を公開、ゼロを掲げる理由:21世紀企業に啓示を与える100ページ超の報告書(4/4 ページ)
Appleが突如発表した、「2020年度進捗報告書」とは何なのか。その詳細を林信行氏がリポートする。
これからの企業が目指すべき道標
ただ、残念ながらここまで社会責任のために真剣になれるのは、世界の頂点に立つ企業だからこその余裕であって、他の会社では例えばCSR(企業の社会的責任)に関する部署を設けていても、ここまで広い視点は持てないのが普通だし、持てたとしても、ここまで深く掘り下げて、実際の根幹事業にまで影響力を持つことができないのも、仕方がないことかもしれない。
そのような中で、Appleの事業報告書は、先端企業が指し示す、これからの企業に求められる姿勢や取り組みとして、経営層などを説得する材料の1つにもなるし、良い参考になるはずだ(Appleは特殊だから、まねする必要がないという考えの経営者に悩まされている企業では、何をやったらいいかはAppleの資料を参考にして時間を稼ぎ、余った時間で、どうして自分の会社でもこういった取り組みが求められているのかを消費者のリサーチなどに回すといいだろう)。
ちなみに、報告書の中でもAppleは自社の社会における役割をこのように定義している。
- サプライヤー市場に対してリーダシップを見せること
- サプライヤー企業を、より質の高いプロジェクトに取り組む機会を与えること
- (トレーニングなどを提供し)クリーンエネルギー界のチャンピオン企業を育てる
- 中小サプライヤーのクリーンエネルギー転換を阻む規制をなくす政策の提言
2015年、リサ・ジャクソン氏が現職に就き、Appleの環境への取り組みが大きく変化をした年、筆者はその本質的な取り組みに衝撃を受け、ファッション業界に習って「エシカルIT」という言葉を生み出した(最近ではエシカルテックと言い換えている)。
その後のAppleが、この5年間で成し遂げてきた数え切れないほど多くのことは、自然破壊とも無関係ではない感染症パンデミックの年に、改めてこれからの企業が目指すべき方向性の道標(みちしるべ)として検証する価値があるのではないだろうか。
深く調べれば調べるほど、1つ1つのことが普通の企業だったら「そんなことは不可能だ」と一蹴されてしまいそうなことだが、Appleはこの5年間、チャレンジし続けることで、「不可能に見えている」のは入り口に立っているからで、そこから真剣な議論を突き詰めれば、どんな不可能にも道が開けるということを証明し続けてきたのではないかと思う。
レポート内容をまとめたもの。1つ1つみていくと、47億ドル(Appleが環境への取り組みが発行する債権グリーンボンドに投じた額。企業としては最大)、100%再生エネルギー(事業者や店舗は100%再生エネルギーで運用)、100%リサイクル(iPhone 11 Pro/11 Pro MaxのTaptic Engineは100%再利用のレアアースで製造)、35%(二酸化炭素排出量の過去5年の削減値、2030年までには排出量ゼロに)。70+(70社以上のサプライヤーが100%再生エネルギーへのコミットメントを表明)、40%(新しいMacBook Airは40%がリサイクル部品)、UN Climate Neutral Now(国連が二酸化炭素排出削減の活動を評価)、CDP A(CDPの気候変動対策企業Aリストに6年連続で選ばれる)、A+(製品やそのパッケージに有害な化学物質を使っていないことを評するMind the StoreでA+ランク)
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