デジタルの絵が持つ、完全に地上から消えてしまうというイメージも嫌いじゃない――寺田流「デジタル絵画の変遷」:寺田克也さんに聞く(4/4 ページ)
イラストレーター/漫画家の寺田克也さんが『寺田克也SKETCH』を出版した。そこに至るまでの道のりや、デジタル作画~データの保存についてお話を伺った。
デジタルデータの防衛と諦観
デジタルの欠点としては、データが一気に消失してしまう事故が発生する可能性があることだ。イラストレーター、漫画家、カメラマンなどクリエーターのデータ消失は場合によっては大損害になる。寺田さんはどのように防御しているのだろうか?
「2つの外付けHDDとiCloudに保存。納品する際にDropboxを使ってそこにもデータが残るようにしてある。けどたまに忘れてぶっ飛んじゃう。3年くらい前に、何年か分の写真が消えちゃった。写真でしか保存をしていなかった絵も何枚かなくなったかもしれない」
「そもそも、今のデジタルのフォーマットがいつまで続くか分からないからね。いずれJPEGフォーマットのファイルが開けなくなるかもしれない。だから本気で残したい人は、作品を紙焼きにしておくのがいい。紙焼きした作品は火事とかで焼けない限り残るから。汚れても復元できるしね。でもオレはしていない。デジタルの絵の持つ、完全に地上から消えてしまう絵、というイメージも嫌いじゃないから」
20年ほど前、家族の写真をデジタルに置き換えるのがはやったことがあった。写真やネガは取り込んだあとに捨てられてしまった。
しかし大災害があった後、残ったのは紙焼きの写真やフィルムだった。PCの類はほとんど全滅してしまったという。
「映画業界でもデジタルで撮影した作品を、アナログのフィルムに焼こうという動きがある。デジタルをフィジカルなものに置き換えておくというのは、これから大事になってくるかもね」
筆者はSNSなどで、「若い人はいきなりデジタルで絵を描かずに、アナログで描いてからの方が良い」という意見を耳にしたことがあるのだが、寺田さんはどのように考えているのだろうか?
「正直分かんない。そもそも人類の歴史は短いじゃん。さらに自分の人生なんかたかだか数十年しかやってないんだから。『紙と鉛筆が全てだよ!!』何てことはとても言えない。最初からデジタル作画でも良いと思う」
「ただ、人間には五感があるんだけど、デジタルの道具って五感の全ては使えないよね。ざらついた紙質だとか、絵の具が載ったときの豊かさとか、そういう情報の量ではデジタルはアナログの足元にも及ばない。アナログで作業をしてみると、その情報量に気づいて、何かが変わるかもしれない。理想を言えば、デジタルとアナログどちらも触って、フィードバックさせるのが良いかもしれないね」
インタビュー中、寺田さんはたびたび「自分が何を作りたいかが大事」と口にした。確かにどれだけ技術が進んでも、作りたい物がなければ意味がない。
デジタルの道具をそろえることのハードルがとても下がった時代だからこそ
『自分が、何が好きで、何が作りたいのか?』
という核の部分を見極めなければならないと思った。
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