何があっても“学び”を止めない――茨城県守谷市が全小中学校のオンライン授業をいち早く実現できた理由(前編)(2/3 ページ)
東京のベッドタウンとしても知られる茨城県守谷市が、2021年8月25日から9月12日にかけて全ての市立町中学校において完全オンライン授業を実施した。新型コロナウイルスの感染拡大が問題となり、ほとんどの市区町村が「夏休みの延長」や「分散登校」の判断を下す中、守谷市がオンライン授業という選択肢を取った経緯を聞いた。
端末をiPadに切り替えたのは「総合的に見て」
―― 学習用端末をiPadに切り替えたということですが、これは小中学校の全学年で共通なのでしょうか。(編集注:自治体によっては、学習用端末の種類を学校単位や学年単位で変えている場合がある)
奈幡氏 その通りです。導入したのは「iPad(第8世代)」です。操作性が非常に子どもたちになじみやすいことはもちろん、起動の速さやボディーの軽さと扱いやすさなど、総合的に判断した結果、iPadがいいだろうと判断しました。
―― GIGAスクール構想では、学習用端末としてiPadの他にWindows 10 Proを搭載するPCやChromebookも推奨されています。iPad以外の二者は比較したのでしょうか。
奈幡氏 しています。その結果に加えて、「1人1台」の先進校の様子を見て決めました。私立学校では、かなり前から学習用端末を1人1台配備している所もあり、教育委員会としてその学校を視察することで得た知見も踏まえて、「子どもたちにはiPadが一番ベター」という結論になりました。
―― iPadは、2020年度内にそろったのでしょうか。
奈幡氏 iPadの納入が始まったのは2020年度からですが、まず小学4年生以上の分を確保しました。半導体の供給不足の影響もあって、小学1年~3年生の分は2021年9月に入ってから納入され始めた感じです。
納入の遅れを心配なさった市議会議員が「これでは授業で使えないんじゃないか?」と、議会で質問されたこともあります。しかし、先ほど申し上げた通り、守谷市では以前からWindowsタブレットを2000台以上使っていましたから、それを使って対応できています。
ずっと持っていた「学びを止めない」意識
―― 茨城県では、2021年8月16日から県独自の「緊急事態宣言」が発出されて、その4日後(8月20日)から法律に基づく国の緊急事態宣言の対象となりました。守谷市立小中学校は2学期制で、前期授業の再開が8月25日に迫っていたと思うのですが、授業のオンライン化はいつ頃に判断したのでしょうか。
奈幡氏 良い質問です。まず「8月25日から授業が始まる」という事実がオンライン化を早期に決断した背景の1つにあります。
守谷市では、2019年度から「児童/生徒の学習効果の最大化」と「教職員の働き方改革」を目指した「守谷型カリキュラムマネジメント」に取り組んでいます。守谷型カリキュラムマネジメントでは、児童/生徒と教員双方の「日常の負担を平準化する」という観点から、週3日間の5時間授業を確保しています。先進事例ということで、2020年1月には当時の萩生田光一文部科学大臣が視察にも来ています。
守谷型カリキュラムマネジメントによって、児童/生徒は放課後の時間にゆとりが生まれます。一方で、教員は授業準備や研修に充当できる時間を増やせるというメリットがあります。ただし、学習指導要領で定められている授業時間は順守しないといけないため、不足する授業時間をどこかで補う必要があります。
そこで、守谷市では「2学期制の導入による始業式/終業式の削減」「夏休みの短縮」「茨城県民の日(11月13日)や学校創立記念日の授業実施」といった方法で授業時間を確保することにしました。夏休みの短縮という観点では、従来は9月1日に2学期を始業していた所、1週間前倒して8月25日に前期授業を再開するようにしています。
守谷市では、児童/生徒と教員の負担平準化を目指して「守谷型カリキュラムマネジメント」を導入した。最大の目玉は「週3日間の5時間授業」だが、素直に実行すると学習指導要領に定める授業時間を満たせなくなるため、夏休みの削減などによって出席すべき日数(≒授業の実施日数)を7日増やしている(出典:守谷市、PDF形式)
奈幡氏 話を元に戻すと、夏休み明けの授業をオンラインで実施する判断をしたのは茨城県独自の宣言が発出された8月16日です。以前からオンライン授業に関する想定は進めていたので、判断はすぐに下せました。
新型コロナウイルス感染症の影響で、2019年度末から2020年度初頭に全国的に「臨時休校」が行われました。この時は守谷市でも臨時休校を実施しましたが、これを受けて教育委員会では町田香教育長を筆頭に「児童/生徒の学びを止めてはならない」という課題意識を持つようになりました。
その課題意識から、当時私が校長を務めていた守谷小学校では、試行の一環として2020年の夏休みに全校一斉の「オンライン・ホームルーム」を自由参加という形で実施しました。他の各小中学校もは、2020年度を通して緊急時に学校と家庭をどう“つなげる”のかという試行錯誤を繰り返してきました。
奈幡氏 2021年4月30日には、守谷市立小中学校の校長会において、臨時休校をした場合のオンライン授業に関する協議が行われました。その後、同年7月30日には校長会がオンライン授業で使うポータルサイトの活用方法の研修会を実施し、同年8月上旬には教頭会と教務主任会でも同じ研修を行いました。手前みそではありますが、守谷市の場合、教育長はもちろん、校長、教頭、そして現場も危機感が強かったのだと思います。
そんな折、7月下旬から8月上旬にかけて「子どもにおける新型コロナウイルスの感染拡大」が大きな話題となり、守谷市内でも小中学生の感染者が増え始めました。市内の新型コロナウイルスの感染者のうち、小中学生の人数は2021年8月末までの累計で30名超でしたが、その9割以上が7月下旬以降の感染です。茨城県の出方を待っていられない状況にありました。
8月25日に授業が再開するとなると、遅くともその1週間前である8月18日までに保護者の皆さんに何らかの連絡をしなければなりません。そんな折、8月16日に茨城県独自の緊急事態宣言が発出されました。その対策パッケージの中に「授業(課外含む)はリモート対応」という方針が盛り込まれていました。そこで、8月16日中に前期授業をオンラインで再開する判断を下しました。翌17日には臨時校長会を開催し、18日には保護者の皆さんへの周知を実施しました。
この辺の判断は、他の自治体よりも早かったと思います。
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