検索
インタビュー

何があっても“学び”を止めない――茨城県守谷市が全小中学校のオンライン授業をいち早く実現できた理由(前編)(1/3 ページ)

東京のベッドタウンとしても知られる茨城県守谷市が、2021年8月25日から9月12日にかけて全ての市立町中学校において完全オンライン授業を実施した。新型コロナウイルスの感染拡大が問題となり、ほとんどの市区町村が「夏休みの延長」や「分散登校」の判断を下す中、守谷市がオンライン授業という選択肢を取った経緯を聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 都道府県や市区町村によって多少の差はあるが、3学期制の公立学校では一般的に9月1日前後から「2学期」が始まる。2学期(前後期)制を取る公立学校では、夏休みによって休止された「前期」の授業を8月25日前後から再開することが多い。

 ところが2021年は少し様子が違った。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威が続き、夏休み明けの時点で新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が発令されていたのだ。多くの公立小中学校は、この事態に対して夏休みの延長児童/生徒の分散登校といった措置を講じた。

 しかし、茨城県守谷市は違った。夏休みの延長でもなく、分散登校でもなく、全小中学校の全クラスにおいて「オンライン授業」を実施することで対応したのだ。このような対応を取った自治体は、全国を見ても珍しい。

 筆者は守谷市在住で、中学2年の息子が同市立中学校に通っている。息子がオンライン授業に臨む様子を見ていて、「他の市区町村にはできなかったことが、なぜ守谷市ではできたのか?」という疑問が湧いてきた。

 そこで、守谷市教育委員会でオンライン教育の実施を主導した奈幡正参事から話を伺うことにした。その模様を2回に分けてお伝えする。今回は、同市における教育のICT環境に関する話と、同市が全学年全クラスにおいてオンライン授業に踏み切った経緯をまとめる。

奈幡正参事
取材に応じてくださった守谷市教育委員会の奈幡正参事。奈幡参事は夏休み明けのオンライン授業の実施を主導した立役者である

GIGAスクール構想の前から1人1台を実現 電子黒板も積極的に導入

―― 守谷市の市立小中学校において、学習用端末の「1人1台」環境がそろったのはいつ頃でしょうか。

奈幡氏 守谷市で1人1台のPCを使う授業が始まったのは6年前、2015年度からです。

 「GIGAスクール構想」が始まる前から、国(文部科学省)は一生懸命に「児童/生徒3.5人に1台」の学習用端末を整備するように呼びかけていました。そのこともあって、守谷市では6年前、市立小中学校に合計2000台のWindowsベースのタブレットPCを配備しました。

 市立小中学校に通う小中学生はおおむね6000人程度で推移していて、正確には直近だと約6200人です。当時は全ての授業で学習用端末を利活用するわけではありませんでしたので、国の「3.5人に1人」という基準を少し上回る2000台ほどのタブレットPCを用意することで「必要な授業では1人1台」を実現できたのです。

 そのため。現在の小学校高学年の児童や中学生は、小学1年生の段階からタブレットPCを使った学習を経験してきています。教える側の教員も、タブレットPCを使う前提の指導に慣れています。そのため、GIGAスクール構想によって完全な「1人1台」が求められる状況になりましたが、学び方が大きく変わることはありません。

 児童/生徒も教諭/講師も既に慣れている状態で完全な1人1台体制をスタートできた点が、他の自治体との違いかなと思います。

―― 娘が小学生の頃、授業参観に行きました。パソコン室で2in1 PCを操作して「PowerPoint」を使って修学旅行のレポートをまとめるという授業でしたが、PCをしっかり活用しているなと思いました。その背景には、このような取り組みがあったわけですね。

奈幡氏 1人1台環境の良さの1つとして、国がいう所の「個別最適の学び」があります。

 さらに、守谷市では7年前(2014年度)から、全ての市立小中学校の理科室、家庭科室や音楽室といった特別教室を含む授業で用いる全ての教室に大型の電子黒板を配備しました。いわゆる「提示型(単純な大型ディスプレイ)」ではなく、タッチ操作やペン入力に対応する、正真正銘の“電子黒板”を200数十台を導入しています。

 電子黒板があることは、学習に非常に大きな効果を与えます。6年前からの授業パターンですけど、まず児童/生徒が目の前にあるタブレットPCに自分の考えをまとめて、PowerPointに書き込みます。すると、その結果が電子黒板にまとめて表示されます。例えば算数や数学の授業なら、1人1人の解法を並べて、それぞれの良い点と課題点を議論して、よりベターな解法を見つけ出すという流れを作れます。

 全員で情報を共有して議論して、異なる考え方をすり合わせる――これこそが、教室で集まって学ぶことの醍醐味(だいごみ)です。1人1台のタブレットPCと、大きな電子黒板の両方を使うことで、思考を広げたり深めたりする学習が進めやすくなります。

 GIGAスクール構想のタイミングで、守谷市では端末をタブレットPCから「iPad」に切り替えましたが基本的な考え方は変わっていません。

守谷市の取り組み
現在の守谷市立小中学校のICT環境。普通教室ではGIGAスクール構想の補助金を活用して整備されたiPadを使う一方で、コンピュータ教室(パソコン室)では従来から導入していたWindowsタブレットを利用している(資料提供:守谷市教育委員会)
       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る