フリーソフト「死後の世界」が19年以上も現役であり続ける理由:古田雄介のデステック探訪(1/2 ページ)
前回のログインから一定時間が過ぎたら、あるいは期日指定で特定のフォルダーが削除できる「死後の世界」。Version 1.00が完成して以来、19年以上も提供を続けている。息の長いこのフリーソフトはどのように作られ、管理されてきたのだろうか。
生きている間は手元にあってほしいけれど、死んだら自分と一緒に消滅してほしい。そんな都合のいい仕組みを簡単に作れるWindows用のフリーソフトがある。「死後の世界」だ。
特定のデータを時限装置で消去できる
あらかじめ登録したドライブやフォルダー、ファイルなどを時限で消去するのが主な機能となる。消去するタイミングは年月日指定と、最終起動日からの期間指定が選べる。
年始を消去する日に指定して、毎年の大みそかに設定を更新するといった付き合い方もできるし、「30日間起動しなかったら自分に何かがあったとき」などと心に決めて期間指定で付き合い続けるのも有効だろう。生死とは無関係に、経理書類を数年間保管した後に自動で消去するといった使い方も便利そうだ。
拡張機能として、消去実行時にメッセージを表示する機能も備えている。家族が遺品整理の段階でPCを開いたとき、「このメッセージが表示されたとき、私は生きてはいないでしょう」といった遺書のようなものを伝えることもできるし、「重要なデータはスマホにあります。パスワードは●●●●●●。パソコンはストレージを破壊したうえで廃棄かリユースに出してください」と事務連絡に利用することもできる。
その裏では、墓場に持っていきたいデータをきちんと墓場まで持っていけているというわけだ。
シンプルな構成で応用が利きやすく、Windowsを利用しているユーザーなら利用価値は高い。そして何より心強いのは、2003年4月にVersion 1.00を公開してから19年以上も提供を続けているという実績だ。
死後に備えたり、遺族に安心を提供したりするITサービス、すなわち“デステック”は、とても完成度の高いサービスであっても数年や数カ月で姿を消すことがしばしばある。損益の見切りが早いのはITサービス全体の傾向といえるが、ときには数十年スパンで付き合う必要のあるデステックの特性を考えると、長期間任せられる価値はことのほか高い。
その価値はいかに作られているか。「死後の世界」が育まれた背景をひも解くと、その理由が見えてくる。
会社員生活と子供の誕生が「死後の世界」を生んだ
作者は愛知県在住のWebディレクターであるゆきさん。「死後の世界」を開発した2003年4月頃は29歳で、プログラマー兼システムエンジニアとして会社で働いていた。プログラミングのスキルアップと実益をかねて自作ソフトをいくつも開発しており、「死後の世界」のアイデアもそうした生活の中から生まれたという。
「会社のデータを持ち帰った状態で自分にもしものことがあった場合に、情報漏えいにつながらないかという危惧がありました。そこで、自分に何かあった際に自動的に指定したデータのみ消去してくれるソフトがあるといいなと思ったのがきっかけです」
これは、自分用の道具をDIYする感覚に近い。マーケティング視点ではなく、とにかく実用性重視で作り上げて自分で使う。せっかくだから、それを世間にお裾分けするというスタンスだ。だから、ゆきさんのソフトはどれも生活に根付いているように映る。
拡張機能に「遺言」機能を追加するアイデアも生活の必然性から生まれた。
「当時は、自分自身にも子どもが生まれたばかりでしたので、残された家族への手紙などもあった方がいいなと強く思いました。そこで残された人向けの機能も追加した次第です」
「死後の世界」の公開から間を置かず、ゆきさんは子供が生まれたのをきっかけに退職して独立開業の道を歩んだ。自身のホームページ「One Plus One」で公開している自作ソフトはこの前後の時期に開発したものが多い。
当時の世相を振り返ると、ゆきさんが明確な意志を持って将来に備えようとしていたことがよりくっきりとする。
2000年代前半は、死後に備えるという発想が縁起でもないものとして忌避される空気が今よりずっと濃かった。エンディングノートはまだ一般的ではなかったし、「終活」という言葉が一般的になったのは2010年代に入ってからだ。同種のコンセプトで開発されたフリーソフト「僕が死んだら...」(有限会社シーリス)の登場も、2007年12月まで待たなければならない。そういう時代だった。
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