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iPhoneの安心/安全はもはや国民が自ら意見を述べて守るしかない――「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の最終報告を受けて(4/4 ページ)

デジタル市場競争会議で検討されていた「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の最終報告が公開され、これを受けてパブリックコメントの募集が始まった。この流れを受けて、林信行氏がコメントを寄せた。

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他社ストア容認で日本と欧州だけiOSの全機能を使えない例外仕様に?

 Appleは自社製品の安心安全な体験を何よりも重視する企業なので、こうした他社ストアによるアプリ提供が始まった場合、その国のストアのアプリでは一部OSの機能を利用できなくすることなども検討を始めているようだ。

 例えば、iPhoneの画面上に表示されたものを声で読み上げたり、カメラに映ったりしたものを画像認識して視覚障害者に教えてくれるVoiceOverという機能などがあるが、このOS機能を審査の緩いアプリストアから配布された悪意のあるアプリが、悪用してしまうと極めて重要なプライバシー情報が、悪意のある人たちに筒抜けになってしまう。

 この機能などは何か良い方策が見つからない限り、2024年以降ヨーロッパで提供を取り止めざるを得ず、日本でも同様になる可能性が高い。

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 これは一番分かりやすい事例だが、他にもユーザーにとってのセンシティブな情報を扱うAPIや、最近、長年の広告活動によって得た「iPhoneは安心安全に情報を預けられるデバイス」という信頼に基づいて開発されている最新OSの新機能のいくつかは、ヨーロッパや日本の市場では利用できなくなる可能性がある。

 そうすると、必然的に日本のアプリ開発者もそういった最新技術を取り入れたアプリを開発できなくなり、日欧用のアプリとそれ以外の国用のアプリとを別個に開発する手間などが生じることになる。

 果たして、それは本当にアプリ開発者が望むことなのだろうか。

パブリックコメントは15年続いた安心安全を未来につなぐ最後の手段

 このようにデジタル市場競争会議が2年間、議論して出してきた最終報告は、最初から他社のアプリストアを認めさせるという結論ありきで議論を進めていた形跡が、そこかしこに見られる。あまりにもそれを優先するあまり、一番大事な消費者(=国民)の視点も欠いたかなり一方的な内容になっている。

 他にも同会議の議論の問題はたくさんあるが、これ以上、記事が長いと読みづらいので、興味を持たれた人には、是非とも過去の記事も読んでもらいたいと思う。

 もし、この法案が可決されるようなことがあれば、それによって国民のプライバシー情報が危険にさらされるばかりか、今後、日本ではiPhoneの最新機能の一部が使えなくなるなどさまざまな弊害も考えられる。

 アプリストアは、ユーザーがデジタル機器やサービスを安心して使えるように、これまで当たり前に提供されていたサービスだ。Appleが初めて発明したわけではなく、その前にはiモード携帯などで提供されていたドコモマーケット(現在のdマーケット)やKDDIが採用していたEZアプリのストアなどもあった。ゲーム機でも任天堂のMy Nintendo Store、ソニーのPlayStation Storeといったアプリストアがあり、LINEがスタンプなどを販売しているLINE STOREもある。

 いずれも、大成功している製品やサービスを支えている人気のストアだ。果たしてデジタル市場競争会議では、今後、これらのストアに対しても開放を求めていくのだろうか。それとも世界トップレベルに成功している米国企業だけが対象なのだろうか。

 これら他のアプリストア運営企業の意見も是非とも聞いてみたいが、できれば筆者の記事だけでなく、本件に関する他のジャーナリストの記事もよく目を通して、皆さんがどのように思うかを整理し、パブリックコメントを残してほしい。

 皆さんが、その政府によるパブリックコメントの募集に応えて意見を残す機会は、人生においてそう多くはないだろう。だが、テクノロジーに詳しい人は、今回がまさにその限られた「パブリックコメントを残すべき」タイミングだ。皆さんの行動が、将来の世代の運命を左右することになると信じて、ぜひ、人生において1回か2回の時間を割いてほしい。

 政府が再び失策をして笑うのは簡単だ。だが、自分にできることがあるのに、何も行動をせずにただ笑うだけというのは無責任だろう。今の政府にデジタル施策に問題意識を持っている人にとって、ここでパブリックコメントを残すことは未来の世代に対しての責務と言っていい。

 パブリックコメントの募集は、こちらのページで行われている。


意見入力は、「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」に対する意見募集についてのページから行える
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