3つのキーワードで読み解く! 「WWDC23」から見えた2024年のAppleプラットフォーム(5/5 ページ)
2023年5月に開催されたAppleの「WWDC23」。話題は「初の空間コンピュータ」として発表された「Apple Vision Pro」に行きがちだが、Appleのプラットフォームを支える、既存OSのバージョンアップも見逃せないポイントが多い。
カーム・テクノロジーとゲームにも本腰を入れる取り組み
今回、筆者がピックアップした3つのキーワード、「基本コミュニケーション」「Safari」「ウェルビーイング」では、秋の新OSの氷山の一角しか説明できないが、いずれにしても全ての機能を1本の原稿で紹介することは難しい。
ここではそれ以外の変更で、筆者が興味深いと思ったものをいくつか追加でピックアップしたい。
1つは「ウィジェット」の活用だ。画面常時点灯のiPhoneやApple Watchは、他のデバイスに先駆けてこれらの情報表示をうまく行っていたが、これらのウィジェットに表示されるボタンなどが直接操作できるようになったことに加え、iPadOSとmacOSで、より細かくウィジェットの画面上の配置などができるようになったり、macOSの画面上にiPhoneで使用しているウィジェットを表示したり(iPhoneが近くに来ると自動的に情報が同期される)と、かなりいろいろな改良が加えられている。
macOS、iPadOSでもウィジェットの利用を本格的に活用できるように改良が加えられたが、iOSでは、さらに一歩活用を進め、iPhoneをMagSafe充電器を使って充電中で利用していない間、情報表示端末として活用できるようにStandBy機能を用意している
筆者は突然のウィジェット重視の姿勢は、Apple Vision Proの開発とも連動しているのではないかと思っている。おそらく、こうして開発されたウィジェット情報をApple Vision Proでも簡単に取り込めるようにするのではないだろうか。
ウィジェットは機器の使用中に目の片隅で確認する情報としても有益だが、使っていない間も機器に役割を与えるというもう1つの側面がある。これを非常に強く感じさせるのが、「StandBy」と呼ばれる新機能で、iPhoneをMagSafeアクセサリーで横長の状態にして充電しているときに、時計などを始め各種有益情報を表示するディスプレイとして役立てることができるのだ。
ウィジェットはこの状態で直接操作することも可能なので、例えばHomeKit対応のウィジェットを表示させておけば、充電台のiPhoneを照明のオン/オフを行うスイッチ代わりに活用するといったこともできる
ユーザーがアクティブに関わるのではなく、ただそこにたたずんでいるだけの情報を「Calm Tech」と呼ぶ動きがある。ビキタスコンピューティングの父、マーク・ワイザー氏が提唱し、著書「カーム・テクノロジー 生活に溶け込む情報技術のデザイン」にまとめた技術で、日本では同著日本語版の監修も行っている日本のmui Lab(代表 大木和典)が押し広めている他、ソニー系列のCSL(ソニーコンピュータサイエンス研究所)なども注目している。
Appleは、この言葉を使ってこそいないが、StandBy機能が目指している方向性は、この「カームテクノロジー」の方向性と共鳴する部分が多いように感じる。
ちなみに未使用時の役割としては、macOS Sonomaのスクリーンセーバー機能にも世界の美しい映像を表示するスクリーンセーバーが搭載される予定で、日常生活の中に旅の楽しみや発見する喜びを与えてくれる機能として大いに期待している。
一方、macOSにはカーム・テクノロジーと真逆の変更も加えられている。ゲーム関連の機能で、他のプラットフォーム用に作られたゲームを少ない手間で、とりあえずMac上で動く状態にできる移植用ツールキット「Game Porting Toolkit」を提供したり、ゲームプレイがスムーズになるように、プロセッサの処理能力をゲームに優先的に割り当てたりするゲームモードなどの機能も提供する。
Apple Vision Proのリリースで、2024年以降のAppleは、新たなコンピューティング領域を開拓することになる。それに合わせるように既存4つのOSは、コミュニケーションやWebブラウジングといった基本機能を、もう1度しっかりと見直して安心安全な足場づくりをする上で精神の健康やカームコンピューティング、ゲームなど、いくつもの新しい方向への取り組みを同時に始めている。
ChatGPTなどの大規模言語モデルがこれだけ話題になる中、Appleがこの話題の技術を最新OSにどのように取り込むかも気になった部分だが、結果としてはAppleはこの技術を使ったアプリの開発はサポートするが、まだ信頼性に足らない技術として自らは積極的に採用しないという姿勢を示した。
ただし、AIによる進化を全く取り入れていないわけではなく、Siriの機能や今、ユーザーに必要なウィジェットを判別し表示するスマートスタックと呼ばれる機能、あるいはwatchOS 10のスヌーピーの文字盤などがAppleらしいAI活用を体現している。Apple流「カームテクノロジー」を感じさせるスヌーピーの文字盤は、記念日や急な天候の変化など、さまざまな状況に合わせて豊富なアニメーションが用意されており、ユーザーが大事な情報を逃さないように「ほのめかせて」くれる。
この秋にリリースが出そろって以降の2024年は、Apple Vision Pro以外の動向もかなり面白いことになりそうだ。
なお、本稿執筆中にアン・サポの開発を主導したひもろぎ心のクリニックの渡部芳徳医師が2021年に他界していたことを知った。存命中、同氏にはスマートフォンの精神医療分野での可能性を教えていただき、筆者が行った神戸医療イノベーションフォーラムでの講演にもゲストとして登壇していただいた。本稿執筆後には、ぜひともAppleの新機能について意見を賜りたいと思っていただけに残念だ。ご冥福を祈りたい。
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