「Apple Vision Pro」を先行体験! かぶって分かった上質のデジタル体験(1/3 ページ)
AppleがWWDC23にて発表したMRヘッドセットが「Vision Pro」だ。これまでのAR/VRなどのHMDデバイスと何が違うのだろうか。林信行氏が真っ先にかぶって分かったことをまとめた。
Appleが「初の空間コンピュータ」として発表した「Vision Pro」。これをかぶって本体を右手でつかみ、人差し指がくる位置にあるデジタルクラウン(リュウズ)を押し込むと、目の前にiPhoneのホーム画面にあるようなアプリのアイコンが突然、現れる。
どんなアイコンがあるのだろうと視線を動かすと、視線の先にあるアイコンが立体的に動いて反応する。起動したいアプリアイコンに視線を合わせた状態で、右手の親指と人差し指をくっつけると、アプリが起動する。
話題のVision Proを一足早く、日本のメディア関係者としては1人だけ先行して体験する機会を得た。筆者がこれまでAR/VRのヘッドマウントディスプレイ(HMD)に対して懐疑的で「Appleには出してもらいたくない」と否定的なことばかりを書いていたので狙い撃ちをされたのかもしれない。
最高品質のデジタル体験を得られる「Vision Pro」
話を元に戻そう。
先の操作方法で「Encounter Dinosaurus」(恐竜との遭遇)という名のアプリを起動した。するとリビングルームの壁際にアプリのタイトルが表示される。映像なのは分かっているが、壁にタイトル文字の影が落ちているせいで、不思議なリアルさを感じる。しばらくするとその上をチョウがひらひらと舞い始めた。そのチョウに向かって指を伸ばす。するとチョウが近づいてきて指の先に止まった。
このように書くと、何か素敵なものを想像するかもしれないが、改めて指先のチョウをよく見てみると脚の節目までかなりリアルだ。虫が苦手な筆者は、一瞬ゾッとして指を動かしてしまった。すると、それを感じたのかチョウも指から離れて壁に向かって飛んで行った。
続いて、壁が真ん中から2つに分かれて、その向こうに荒野が現れた。しばらくするとその荒野の左側からティラノサウルスが現れ、別のティラノサウルスと戦い始める。
やがて、ティラノサウルスが私の存在に気がついたのか振り向き体勢を変える。
ここまでのできごとは、全て壁に開いた穴の向こう側での出来事だったが、迫ってきたティラノサウルスは壁際の穴を飛び出してリビングルームに侵入してきた。絶体絶命か!?
幸いなことに、途中で戦意を喪失したのか、襲ってくる様子はなさそうなので、こちらから歩いて近寄ってみた。ウロコのような肌など、かなり細かい部分までリアルに再現されていた。
なるほど、恐竜が登場するVRのコンテンツは他にも見たことがあるが、「テクノロジーと魔法の違いが分かっている会社が作ると、こうも体験が変わるのか」というのが筆者の感想だ。
文字だけで読まされていると、これまでのVR体験と何が違うのかと疑問に思う人もいるだろう。
人々がある体験を「魔法」と感じるか否かは、「何ができるかではなく」、「どのような品質で体験できるか」で大きな違いが生まれる。今回の先行体験は、まさにその違いを体感するできごとだった。
では、なんでAppleの体験は魔法なのか、頭の中でその要素を因数分解してみた。
おそらくLiDARというセンサーが部屋の大きさをミリ単位で正確に把握しており、そのおかげで文字タイトルが壁に落とす影の表示位置がリアルなこともその1つだろうし、壁に開いた穴がピッタリと壁の底辺と重なっているあたりもそうだろう。
指に止まったチョウの脚をリアルに感じる圧倒的な映像の解像度も、こうした魔法と感じさせる要因だと思う。
さらには目に見えている映像の位置と、空間オーディオ技術で音が聞こえてくる向きがピタリと合っていることも重要なポイントだろう。これが少しでもズレていると、「そうだった、これはリアルではなく偽の体験なんだ」と自覚してしまう。
ゴーグルのほぼ真下の指の動きまでキャッチしてくれるカメラや、視線の向きを正確に捉える技術も重要だが、なんといってもポイントは、こうした要素の歯車1つ1つが精密にからみ合っていることにある。
もちろん、これだけの品質を追求するからには、3499ドル(約50万円)と決して安いとは言えない製品になっている。
基調講演では、M2搭載のPCとディスプレイ、さらに音響設備をそろえるのに比べれば割安と語っていた。確かにそうかもしれないが、それだけに誰でも買えるフレンドリーさは無くなってしまっている。
しかし、こうしたコンピュータ製品は時間が経てばより優れた性能のものが、より安く作れるようになる。
まずは何よりも「魔法のような体験」を大事に、最初の製品では「妥協しなければここまでの体験を作ることができる」という最高の状態を見せて、アプリを作る開発者にもそれに近い高い水準を維持してもらおうというのが狙いなのかと思った。
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