Apple 表参道で辻井伸行さんが語る「Appleとの出会いとテクノロジーの活用」(1/2 ページ)
Apple 表参道で、ピアニストの辻井伸行さんを招いたイベント「Today at Apple」が開かれた。そこで辻井さんが語った内容とは?
Appleの音楽サブスクリプションサービス「Apple Music」のうち、クラシック音楽を専門で扱うアプリ「Apple Music Classical」の日本でのサービス開始から1年を迎えた2025年2月、Apple 表参道で特別イベント「Today at Apple スポットライト」が開催された。
登壇したのは、2024年4月に日本人ピアニストとして初めて「ドイツ・グラモフォン」と専属契約を結んだピアニストの辻井伸行さんだ。
ベートーヴェンのピアノソナタ第29番「ハンマークラビア」やショパンの「ノクターン 第8番」などの演奏を披露しながら、クラシック音楽の魅力やテクノロジーとの関わりについて語った。
グラモフォンでの挑戦と新たな表現
2024年11月、辻井さんは長い歴史を持つクラシック音楽のレコードレーベルであるドイツ・グラモフォンからの初作品として、ベートーヴェンのピアノソナタ第29番「ハンマークラビア」を世界にリリースした。この作品について辻井さんは「ベートーヴェンの全32曲あるピアノソナタの中でも最も難しい作品です。45分ぐらいある作品で、体力的にも精神的にも弾くのはすごく大変でした」と語る。
辻井さんが特に悩んだのは、ベートーヴェンの思いをどうしたら伝えられるかだ。
「晩年の作品でベートーヴェンは耳が聞こえなくなってきた頃に書かれた作品ですが、自分との戦い。音楽家にとっては耳が聞こえないというのは本当に辛いことなので、そういう葛藤とか苦しみとか痛みとか、そういうのが本当にこの曲の中でもすごくあって。最後にはその戦いに勝利したという本当に長い旅で、それをどうお客さまに届けるかというのは苦労しました」と語る。
辻井さんが初めて公の場でこの曲を弾いたのは2009年、20歳で挑戦したヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールだった。「当時は弾くのに精一杯でした」と辻井さん。
「それから15年経って、また改めてゼロから譜面を読み直して、やっと少しこの曲のことが理解できるようになった気がします」と、演奏家としての成長を実感している様子だった。
自然との対話から生まれる音楽
今回のアルバムの録音で辻井さんはドイツに訪れ、その自然を通してベートーヴェンに少し近づけたと感じたようだ。
「ドイツの町は本当に自然がたくさんあって。録音をしたスタジオの回りも自然がたくさんあって。小鳥の鳴き声が聞こえてきたりして、ベートーヴェンをこういうところを散歩していたんだなとか、こういったところで作曲していたんだなとか、いろんなことが感じられました」と語っている。
このように、辻井さんはハイキングなどを通して自然と接することを愛する音楽家として知られている。ベートーヴェン以外では「印象派の音楽作品、特にドビュッシーやラヴェルなどフランス物が好き」というが、その中でもラヴェルの「水の戯れ」が好きだという。
「水が流れている感じとか、水しぶきの強い音や優しい水の流れとか色々な要素があって、何か自然の中で聞くと本当にこの曲はいいな」と語っている。
訪れたヨーロッパの国々の中では、特にスイスとイタリアがお気に入りのようだ。「スイスは山に囲まれていて、自然がたくさんある。イタリアは自然がたくさんあれば食べ物も美味しい」と語っていた。
クラシック音楽の魅力と楽しみ方
辻井さんはクラシック音楽の魅力を広く伝えることを使命の1つと感じている。辻井さんは先のコンサートの名前にもなっている故ヴァン・クライバーンさんが亡くなる直前にこんな言葉をかけられたという。
「クラシック音楽に興味がない方にも、生の演奏を聞いてコンサートに足を運んでもらえるようなそんなピアニストになりなさい」
クラシック音楽の楽しみ方について、辻井さんは「もちろん、たくさんのクラシック音楽を聴くことが大事です。CDもいいですし、Apple Music Classicalとか本当に素晴らしいサービスがあるので、これらを使ってたくさん聞いていただくことも大事です」としながらも、「やはり1番は生のコンサートに足を運んでもらって、ライブならではの感じを味わってほしい」と語っている。
現在、辻井さんは6月まで続くベートーヴェン、ショパン、リストなどの曲を中心に演奏する「辻井伸行 日本ツアー2025」の真っ最中だが、コンサートのチケットが売り切れている会場も多い。クライバーンとの約束は果たせているようだ。
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