「iPhone Pocket」に結実したイッセイ ミヤケとAppleのジョブズ時代から続く縁(3/3 ページ)
iPhone用の新アクセサリー「iPhone Pocket」が登場した。イッセイ ミヤケとAppleが歩んできた道のりを、林信行さんが読み解いた。
イッセイ ミヤケとAppleの接点
イッセイ ミヤケは、Appleと非常に接点が多かったブランドでもある。
イッセイ ミヤケとAppleのおそらく最初の接点は1983年頃、まだ28歳前後のスティーブ・ジョブズ氏がソニーの工場を訪れたことにさかのぼる。そこでジョブズ氏が作業員が皆、同じ制服を着ている理由をソニー共同創業者の盛田昭夫氏に「職位、職種を問わず心を1つに仕事に取り組む」という目的があることを聞き感動したという有名な逸話がある。
実はこの時、ソニーの工場が採用していたユニフォームが、「誇りを持って着られるデザインを」と、1981年から採用が決まった三宅一生デザインのユニフォームだった。
ジョブズ氏は、この影響でAppleでも制服を採用しようと三宅一生氏にベストを作ってもらうが、Apple社員からは大不評で、結局、Appleでユニフォームを採用するアイデアはボツになってしまった。
その後、一度Appleを追い出されたジョブズ氏が1996年末にAppleに戻り、1997年に会社の経営トップに返り咲くと、真っ先に行ったのが「Think different」というジョブズ氏を含むApple社員がヒーローとして讃える人物を、世界を変えたクレイジーな人たちとして称えたCMキャンペーンを展開した。
世界展開されたCMに出てきたのはアインシュタインやピカソ、ガンジーなどだが、それに加えて国ごとに展開したシリーズもあり、日本で展開したThink differentのポスターには三宅一生氏が選ばれており、渋谷の街中などにもビルボード広告が掲げられていた。
その後もジョブズ氏はたまに日本で行われた製品発表会や盛田昭夫氏を追悼した製品発表会などで、イッセイ ミヤケ(正確には2020年で休止したブランドのイッセイ ミヤケ メン)のものと思われるシャツやジャケットを着用している。
イッセイ ミヤケ メンが出したハイネックの長袖シャツが「スティーブ・ジョブズのタートルネック」として世界的に有名になった(ただし、実際にはタートルネックは襟が首全体を覆う長さがあるので、正確には首への締め付けがキツくないモックネックまたはハーフタートルに分類される)。
ジョブズ氏が愛用していたシャツは1997年秋冬コレクションのものだと言われており、イッセイ ミヤケ メンではシーズンの終わったものは基本的に再生産をしないが、ジョブズ氏が愛用していたものに関してはイッセイ ミヤケのニューヨーク支店にジョブズから直接、数十着単位でオーダーが入ったこともあり、特別に再生産をすることが決まった、という(プロジェクトにはiMacやジョブズ氏の当時の肩書きのiCEOにちなんで「iShirt」と言うコード名が付けられたという)。
ISSEY MIYAKE MEN 1997年秋冬コレクション、ブラック・モックネック・ロングスリーブ(2017年、MoMAで73年ぶりに開催されたファッションの展覧会「Items: Is Fashion Modern?」にて筆者が撮影)
最初の数十着は三宅一生氏からジョブズ氏へのギフトとして無償で提供されたが、ジョブズはその後も年間数十着をオーダーし続けたと言われている。
そんな三宅一生氏の魅力を知る創業者、スティーブ・ジョブズ氏の死後は、Appleとイッセイ ミヤケも少し縁遠くなっていたように感じていたが、コロナ禍の前後からイッセイ ミヤケの「Pleats Please」や「Homme Plisse」といったブランドが、(元々、ヨーロッパでは強かったが)突然、米国でも高感度層の間で人気が高まり、Appleの新製品発表会に登壇する重役の中にも、Pleasts Pleaseを着て登壇する人が何人か出始めた。
さらにAppleのデザイン部門、Design Studioでは、よりイッセイ ミヤケ率が高まるという。
筆者は、株式会社イッセイ ミヤケについて日本で最も先進的なデザインの企業であり、テクノロジー企業だと思っており、同じくデザインを主軸に素晴らしいテクノロジー製品を生み出し続けるAppleとの協業を心からうれしく思っており、これを機に日本を代表するブランド、イッセイ ミヤケの素晴らしさがより多くの日本人にも広まることを期待している。
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