インタビュー

過去最高の受注急増と苦渋の全モデル受注停止――マウスコンピューター 軣社長が挑む“脱・メーカーのエゴ”と激動の2026年IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/3 ページ)

PCの価格高騰が止まらない。公式Xへの投稿をきっかけに、創業以来初となる「全モデルの受注一時停止」という決断を下したマウスコンピューター。同社の軣秀樹社長に激動の2025年度を振り返ってもらいながら、今後の価格・生産戦略の展望を聞いた。

メーカーのエゴからの脱却 全社員で貫く「ものづくり10」

―― 軣社長体制になってから、モノ作り企業であることを、より深く追求する姿勢が感じられます。

 その点はとても意識しています。2025年4月には「ものづくり10」と呼ぶ10項目を打ち出しました。これは、マウスコンピューターが、創業以来大切にしてきたモノ作り精神を、10項目としてまとめたものです。


同社のWebページにある軣社長のメッセージ

 公式サイトに掲載している私の代表メッセージも、ものづくり10のエッセンスをまとめたものです。「ものづくりは、あなただ」、「ものづくりは、お客さまへの想いだ」、「ものづくりとは、お客さまとの繋がりだ」など、10項目を挙げています。

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 ベースにしているのは、お客さまの意見をしっかり聞き、それを元に製品化するという姿勢です。誤解を恐れずにいえば、これまではメーカーのエゴがあり、製品を出せば買ってくれるという感覚がありました。これはモノ作りではありません。

 お客さまが何を求めているのかを必死に考え、必死に探り、それに応え続けるユーザーファーストの考え方こそが、モノ作りの原点です。

 そして、モノ作りとは当社の活動の全てであり、当社の全社員の行動がモノ作りの精神で貫かれていなくてはなりません。

 私自身、開発や製造、品質管理、アフターサービスを担当するなど、さまざまな経験があります。その経験からも、ものづくり10は、開発や生産だけの話ではなく、販売やサポート、あるいはバックオフィスの社員を含めて、全員が必ず関わるものでなくてはいけないという認識があります。

 ですから全ての社員に対して、モノ作り精神を徹底していきます。当社では、仕事の全てにおいて、モノ作りが起点となります。2025年度下期には、部門長全員が、ものづくり10に基づいて、自分は何をやるのかということも発表してもらいました。実際、モノ作りを起点にしたことで、課題がスムーズに解決するようになったという手応えもあります。

 法人のお客さまやパートナー企業などを中心に、長野県飯山市の当社工場を見学いただくと、「ベンチャー企業のような会社だと思っていたが、PCメーカーとして、しっかりとしたモノ作りをやっている企業ですね」といっていただくことも増えています。お客さまの声に真摯(しんし)に耳を傾ける、モノ作りの企業であることをもっと知っていただきたいですね。

「ものづくり10」より抜粋

01. ものづくりは、あなただ

「ものづくり」とは、マウスコンピューターの活動の全てであり、「あなたご自身」です。開発や製造だけがものづくりなのではありません。営業、アフターサービス、購買、広報、人事……マウスコンピューターの全ての活動、マウスコンピューターの全従業員の行動がものづくりの精神で貫かれているべきと考えます。

02. ものづくりは、お客様への想いだ

「ものづくり」とは、お客様への想いです。人を想像することです。メーカーのエゴで作るパソコンは、ものづくりではありません。お客様が何を求めているか、を必死に考え、必死に探り、それに応え続けること。そのユーザーファーストの考えこそがものづくりの原点と考えます。

(中略)

07. ものづくりは、アイデアだ

「ものづくり」とは、アイデアです。こんなパソコンがあったらお客様が喜んでくれるのではないか。こんな工夫があったらお客様はもっとマウスのパソコンを好きになってくれるのではないか、と全員が考え続け、アイデアをどんどん出し合う。改善をし続ける。そんな試行錯誤の中から、オリジナリティあふれる未来の可能性の芽が出てくると考えます。

―― 「MOUSE」や「ものづくり10」といった軣社長が打ち出した方針があったからこそ、生まれた製品は既にありますか。

 2025年1月に、ゲーミングPCブランド「G TUNE」のロゴを刷新した際に、これを象徴する新製品を投入しました。昨今のゲーミングPCの潮流からすれば、電飾を使用するなど派手なデザインを採用することが一般的ですが、あえてそれを避けたデザインを採用し、ボディーの色や素材にもこだわりました。

 また、このPCを選んだお客さまが、どんな場所に設置して、どんな使い方をするのか、そのときに必要な機能は何かということを考えた設計も特徴です。机の下に設置したときに使いやすいようにインタフェースを配置したり、ヘッドフォンを使うユーザーが多いことを想定し、それを掛けることができるフックを用意したりといった工夫もしています。日々、お客さまの声を聞いているからこそ、完成したPCです。


2025年で21周年を迎えたG TUNEが、リブランディングしてロゴやケースなどを一新した。本体にヘッドフォンを引っ掛ける機構も導入した

 一方で、NEXTGEARシリーズでは、ミニタワーだけでなく、より拡張性が高いフルタワーのボディーを新たに追加し、mouseシリーズにおいては、タブレットの新製品を約8年ぶりに投入しました。

 これも、お客さまの要望を元に製品化したものです。特にタブレットは、Windowsタブレットを利用しているお客さまが、買い替える製品がないので困るという声が多く、製品化に踏み切りました。有機ELディスプレイを採用するという、マウスならではの遊び心も盛り込んでいます。

 モノ作りに改めてこだわったことで、2025年度の製品ラインアップは、前年比で約1.2倍に増えています。

 個人的な思いなのですが、お客さまに「こういうのが欲しいのだけど」と言われたときに、品ぞろえができていないことがとても嫌だったんです(笑)。PCメーカーであるからには、お客さまが欲しいと言われるPCは、必ず用意しているという状況を作りたい。そういう思いで取り組んでいます。

―― 外野の立場から見ると、MOUSEの「O」の部分、つまり、「オリジナリティーある製品企画と開発」が気になります。

 2025年度中には、「マウスらしい」ものを投入したいとは考えていたのですが、まだ企画を温めているところです。2026年はMouseProが15周年DAIVが10周年を迎えるという節目の1年ですから、それに合わせて、「マウスらしい」PCを投入します。

 ノートPCでも「O」の部分をしっかりと表現した製品を出していきます。まだまだ、これからが本番です。私は、日本のPC業界を盛り立てるには、日本のPCメーカーがもっと元気にならないと駄目だと思っています。PC業界を活性化させるためにも、失敗を恐れずに、もっともっと「マウスらしい」と言われる製品を出していきたいですね。

―― ちなみに、最近だと失敗したPCはありますか。

 2in1タイプのChromebookは、その1つですね。家庭での利用を想定したのですが、スペックを上げたことで価格が上昇してしまいましたし、マウスらしさを盛り込めなかったことが反省点です。

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