―― 現在使われている動画編集用PCのスペックを教えてください。
伊藤氏 3年ほど前に導入した自作デスクトップPCを使用しています。6コア12スレッドのCore i7-8700K、メモリは32GB、グラフィックスカードはRadeon RX570です。ストレージは、会社と自宅どちらでも作業をできるようにUSB 3.0接続の外付けSSDをメインに運用をしていて、容量は今のところ合計3TB程度です。結構ギリギリなので、これから増やすかもしれません。
―― GPUは当時としてもハイエンドというわけではないのですね
伊藤氏 EDIUSはGPUをほとんど使わないので重視していません。GPUよりも重要なのが、Blackmagic Designの「Intensity Pro 4K」です。EDIUSのビデオプレビュー用に使うPCI Expressのキャプチャカードです。コンテンツの規模にかかわらず、(生産性、作業効率、コスト意識が問われる)業務で動画制作を行う上ではこのビデオプレビューは必須です。
―― ビデオプレビューといいますと?
伊藤氏 プロジェクトのレンダリング映像をリアルタイムに外部へ出力する機能です。これを利用すると、常にレンダリング結果をリアルタイムで確認しながら編集を進められます。エフェクトなどの効果がすぐに確認できるのもそうですが、コンテンツを見られることが想定されるデバイスでの状態をリアルタイムに確かめられる、実際に見られることも大きいですね。
例を挙げると、スマートフォン用のコンテンツであれば5.5型クラスのモニターで実際に見ながら作業します。編集がある程度進んでから書き出して5型のデバイスで見て「テロップが見にくいから大きくしなきゃ……」なんてことをしていたら、いつまで経っても作業が終わりませんし、制作段階で5型の画面を見ながら作ったコンテンツと、そうでないコンテンツでは見やすさが全く違ってきます。
―― なるほど。今回試用していただいたDAIV 7Nは、ノートPCなのでIntensity Pro 4Kは使えませんが……。
伊藤氏 そうなんですよ。数年前までは、そこがネックでノートPCでの動画編集というのは現実的ではないと思っていましたが、今ではThunderbolt接続のデバイスの選択肢が複数あります。DAIV 7Nは、Thunderbolt 3の上位互換であるThunderbolt 4を標準で備えているので、それらを利用できます。
たまたま手元にThunderbolt 3接続のユニット「UltraStudio 4K Mini」という上位モデルがあるので今回は使いましたが、1080/60pのビデオプレビューであれば、よりコンパクトな「UltraStudio Monitor 3G」でも対応できます。いずれにしても、ノートPCで動画編集をするなら、この手のデバイスを使うためのThunderbolt 4/Thunderbolt 3端子は必須といえますし、DAIV 7Nがその条件を満たしていてくれて良かったです。実のところ、このお話をいただいた時は機種やスペックの詳細を知らされていなかったので、一番気になっていた部分でした。
―― 実際にThunderboltデバイス経由でビデオプレビューをされてみた感想はどうでしょうか。
伊藤氏 Intensity Pro 4KはPCI Express x4の拡張カードなのですが、デスクトップPCや自作用のマザーボードでビデオカードの他に、こうしたPCI Express x4以上のカードを複数搭載しようとすると、すごく面倒なんですよね。他のスロットやM.2ソケットとレーンを共有していたりするので、差すスロットによっては動作しなかったり、動作しても本来の性能が出なかったりします。
Thunderboltなら、そういったことを気にせずケーブルを差すだけで確実に本来の性能で使えるのでとても楽ですし、パフォーマンス的にも申し分ありません。通常のメーカー製PCですと、こうしたキャプチャーカードを増設するだけでメーカー保証の対象外になってしまいますが、Thunderbolt 4/3での外付けなら保証にも影響はありません。
―― 今回試用いただいたDAIV 7Nは、デスクトップPC向けの8コア16スレッドCPUであるCore i9-11900Kにメモリが128GB、さらにGeForce RTX 3080 Laptop GPU、2TBのPCI Express SSDという超強力なスペックでしたが、性能的にはどうでしたか。
伊藤氏 実際のワークフローに組み込んで試用しましたが、やはり速いですね。特に、EDIUSのプロジェクト書き出し(エンコード)、After Effectsのビデオプレビューが最初に始まるまでの速さ(レンダリングを行ってメモリに書き出す処理)などは、はっきり速くなったと感じます。外付けSSDから内蔵ストレージへのプロジェクトのコピーもあっという間に終わるという印象です。ただ、ちょっと……。
―― ちょっと……?
伊藤氏 ユーティリティーの「Control Center」で「パフォーマンスモード」に切り替えて使うと、ファンの風切り音が気になりました。特にエンコードが始まるとかなり大きな音になるので、エンコード中に同じPCで別の軽作業をしたりするのは別途ヘッドフォンをしたりしないと現実的ではないと感じました。
一方、「サイレントモード」に変更すると動作音は全く気にならなくなりますし、普段の編集作業中のレスポンスが悪化するようなこともなく、ストレスなく使えました。パフォーマンスモードと比べると、エンコードの時間はかなりかかってしまうのですが、状況に合わせてモードをうまく切り替えながら使えばいいのかなと思いました。ディスプレイやキーボードを外付けにして、PC本体を離して使えるような環境なら常時パフォーマンスモードでも気にならないと思います。
―― 制作されている番組のエンコード時間はどのくらいですか。
伊藤氏 1時間番組ですと、普段のPCでだいたい20〜30分といったところです。このDAIV 7Nを使うと2割弱くらい速くなりました。動作も非常にキビキビしているので、ワークフロー全体ではさらに時短になっていると思います。
ただ、EDIUSは、CPUのコアはしっかり使い切ってくれるのですが、メモリもGPUもあまり使わないんですよね。私の業務ですと、特にGPUはかなり持て余していると思いますので、使用ソフトや作業内容によってはもっと違いが出てくるはずです。また128GBのメモリは、時々送られてくる巨大なファイルサイズの素材を扱う際に役立つと思います。
―― DAIV 7Nの液晶ディスプレイはノングレアの17.3型で4K表示、Adobe RGB比100%の高色域です。こちらはどうでしたでしょうか。
伊藤氏 大きな画面で、広色域で色がしっかりと表示できるという点は、写真のテザー撮影用(撮影の際にPCやタブレットなどを使ってリアルタイムに表示を確認しながら進める手法)には良いと思いました。クライアントさんに画面を見せて、確認していただくのにとても都合が良いですね。
―― 動画編集ではどうでしょうか。
伊藤氏 ソフトウェア側の問題でもあるのですが、率直に言って17.3型で4Kというのは細かすぎるんですよね。EDIUSではネイティブ解像度以外ではテロップの大きさが変わってしまうなど表示の互換性に不安があり、拡大して使うという選択肢がありません。個人的にはWQHD(2560×1440ピクセル)くらいがちょうどいいと感じますが、一方で作業用の領域は広ければ広いほどよいという見方もできるので悩ましいところです。
また、動画の場合、色再現性については、ビデオプレビューを表示する先のディスプレイがきっちりできていれば良いので、作業用のディスプレイはそれほどこだわる必要がないんですね。そのため、動画編集の作業用のディスプレイとしてはちょっと持て余してしまうかなという印象です。
―― 他の部分で良かったところ、気付いたところはありますか?
伊藤氏 17.3型という大柄なノートPCだから当たり前かもしれませんが、テンキー付きなのは良い部分ですね。EDIUSでもAfter Effectsでも数値入力で時間指定してタイムライン上を移動する作業をよく行うので、テンキーは必須の装備です。
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