Core Ultra プロセッサーのCPU/GPU/NPUをフル活用できるアプリを世に多く送り出すべく、インテルはアプリ開発者との協業を進めている。実は、Core Ultra プロセッサーが正式発表される約1年前から、数百社のISV(独立ソフトウェアベンダー)と協業しており、同プロセッサー搭載のAI PCのポテンシャルを引き出せるアプリは、既に複数リリースされている。
PC向けCPU業界を今までリードしてきたインテルが、そのリーダーシップをAI PC時代も遺憾なく発揮することで、AI PCやそれを生かせるアプリが広く普及する――筆者個人としては、この好循環が続けば良いと思う。
AI PCの登場は、クラウド(サーバ)側に集中する傾向にあったコンピューティングとして進化が、エッジ(ローカル)側に揺り戻されるきっかけになるかもしれない。
インテルは、AI PCの普及が“エッジ側”にいる起業家やアプリ開発者の活躍する場面の増加につながると考えているという。そこでそのような人たちを応援するための仕掛けとして「AI PC Garden」のようなプログラムを進めている。同社の担当者は以下のように語る。
いくらクラウド側に私たち個人のデータが蓄積されても、そのデータを横断的に使うことは、現時点では難しい。しかし、ユーザーごとのデータをAI PC上に蓄積し、オンデバイスで学習させることはできる。AI PCが普及すれば、昔ブームにもなったポケット型生物育成ゲーム機のように、“自分だけのPC”を育成する時代になるのではないかと考えている。
インテルでは、Windows 10/11に内包されている「Copilot in Windows」や「Windows Studio Effects」を含む10種類のAIアプリのデモンストレーションを見せてもらった。
Windows 11に内包されているAIアシスタント「Copilot in Windows」は現在、クラウド経由でAI処理を行っているが、今後、CopilotのようなAIエージェントでは処理のローカル化が進んでいくと思われる。
一方で、他の多数のアプリでは、AIが処理する内容やユーザーのニーズに応じてNPU/CPU/GPUをうまく使い分けるようになっていくと思われる。アプリのジャンルや機能によって、達成すべきユーザー体験(UX)は異なるため、速度重視でCPU/GPUも活用してAI処理を行うケースや、消費電力重視でNPUを積極的に活用するケースなど、ユーザーニーズに合わせて最適なユーザー体験を実現することをインテルは推奨している。
一方で「Adobe Premiere Pro」に代表される画像/動画編集アプリでは、ユーザーに結果を早く示す観点からGPUをフル活用しているケースが多い。しかし、インテルによると出力をより高速化するために、NPUを併用するケースが増加傾向にあるという。今回のデモでいうと、「Stable Diffusion」のプラグインを組み込んだ「GIMP」のデモンストレーションがそれに当たる。
先に触れた通り、今後はアプリのAIアルゴリズムに応じて、適切なAIエンジンを組み合わせて使うケースが増えるものと思われる。
「これじゃあ、アプリでどのようなAI処理を使っているのか分からない!」という人もいると思うので、デモで使われた主要なアプリ/サービスについて、どのようにAIを活用をしているのか、簡単に紹介しよう。
Stability AIでは、生成AIのエンジンともいえる「LLM(大規模言語モデル)」をPC上で実行できるようにする“コンパクト化”を進めている。その名の通り、「Japanese LLM」は同社が開発した日本語特化型のローカルLLMだ。言語特化型ということもあり、日本の文化の学習をさせることで、入力されたプロンプトが日本の文化や情報に沿った回答できるように鍛えることができるという。
このJapanese LLMの1つ「Japanese Stable LM 7B」は、Core Ultra プロセッサーでも動作する。現在は実際に動作することを示すデモプログラムという形で、実際のアプリに実装されているわけではない。しかし現時点でも動作するということは、そう遠くない将来にアプリへの実装が行われるだろう。
iQIYI(アイチーイー)は、中国発祥の動画配信サービスだ。その中国語版視聴アプリでは、Core Ultra プロセッサーのNPUを利用してインカメラを使ったジェスチャー認識を実現している。動画の再生/一時停止などの操作を手の動きで行える。
iQIYIアプリ(中国語版)では、インカメラを使ったジェスチャー操作に対応している。Core Ultra プロセッサー搭載AI PCの場合、ジェスチャーの認識にNPUを使うため、CPUの負荷を軽減できる
仮想カメラアプリ「XSplit Vcam」では、動画の背景/ぼかし処理(配信向け)をNPUで処理する。グリーンバック不要で人物切り抜きが可能だが、CPUに負荷を掛けることなく切り抜き処理を行える。
今回のデモでは、人物を撮影した動画をHDMIキャプチャーカード経由で入力し、XSplit Vcamでグリーンバックなしでの切り抜きと背景処理を行い、ライブ配信アプリ「OBS Studio」を介して配信するという一連の動作を確認できた。Core Ultra プロセッサーにはAV1エンコーダーも内蔵されているので、AV1エンコードに対応するライブ配信アプリであれば、送信するデータ量の削減も容易に行える。
AI PCさえあれば、バーチャルプロダクションもお手のもの、ということである。
動画編集アプリ「Wondershare Filmora」では、AIを利用する一部エフェクトにおいて、処理の一部をNPUにオフロードできるようになっている。
例えば動きの速い人物がダンスしている動画に対して、「Human Glitch」というエフェクトを掛けるデモでは、物体を検知する「スマートカットアウト」という処理をNPUが行っていた。一応、CPUとGPUだけでも処理は行えるのだが、カットアウト処理をNPUにオフロードすることで、処理に掛かる時間を短縮できるという寸法だ。
「Luminar Neo」は、多機能画像編集アプリとして知られている。本アプリでは「AI」と付いているエフェクトをGPUによるAI処理で行える。
今回のデモでは「エンハンス」というメニューの中にあるAI対応の「スカイ」エフェクトが披露された。その名の通り、写真内の“空”を調整するエフェクトで、オブジェクト除去の「電線を消す」は特に便利そうだった。
多機能さゆえに、本アプリは動作が重い傾向にある。しかし本格的にNPUも活用するようになれば、動作が軽快になるかもしれない。
ちなみに、本アプリのAI機能はOpenVINOを使って開発されていて、Core Ultra プロセッサーにも最適化されているという。
アドビの写真編集アプリ「Lightroom」、動画編集アプリ「Premiere Pro」では、GPUを駆使した編集機能が搭載されている。
Lightroomでは、写真に後からボケ効果を追加する「レンズブラー」機能のデモが披露された。奥行き感のある写真なら、その後方が自然にボケる。「ノイズノイズリダクション」も、基本的にはGPUによる処理になるという。
Premiere Proでは、区切れのない編集済み動画のシーン検知のデモが行われた。これもGPUによる処理で、かなり正確にシーンを切ってくれる。
CyberLinkの動画編集アプリ「PowerDirector」の最新バージョンにも、AIを使ったエフェクト機能がある。
デモでは5人のパフォーマーによるダンス動画にAIエフェクトを順次追加していったのだが、現状ではこの処理にGPUを活用している。今後はNPUを活用するエフェクトを増やしていく方針とのことだ。
MicrosoftのOS「Windows 11」では、主にユーザー体験(PCの使い勝手)の向上、業務の生産性向上、セキュリティといった観点からAI機能の実装が順次行われている。先述の通り、現状ではクラウド処理する機能も多いが、可能なものをNPUによるローカル処理とすることで処理速度が向上するだけでなく、利便性も向上する見通しだ。
現状でNPUによるエッジAI処理に対応する「Windows Studio Effects」では、NPU非搭載の前世代CPUと比べて最大13%の電力効率向上が図れる(Microsoft Teamsによるビデオ会議で利用した場合の比較)。これによりバッテリー駆動時間を延ばせるので、仕事でPCをより長く利用できるというわけだ。
インテルは、オープンソースの画像編集アプリ「GIMP」向けに画像生成AI「Stable Diffusion」を呼び出すデモプラグインを開発した。このプラグインをCore Ultra プロセッサー搭載PCで実行すると、非搭載の前世代CPU比で処理が最大65%高速になるという。
ちなみに、このプラグインはオープンソースとして公開されている。オープンな姿勢でアプリ開発支援をしているインテルならではといえるだろう。
インテルのCPU/GPU/NPUに最適化されているアプリがここまで多いのにも驚きだが、先のリストに掲載されていないアプリも多数最適化されているか、最適化作業が進んでいるという。
ノートPCでAIの処理がここまで速くこなせるのは、隔世の感がある。スマートフォンの普及によって、多くの面白いアプリが登場したような、新しい体験がここから始まるような期待を感じる。アプリ開発者の視点からすると、オープンな環境であるOpenVINOでCPU/GPU/NPUをフル活用したAIアプリを開発しやすいのは良いことだと思う。
今までなかったAIを活用したPC向けアプリが多く出てくることで、私たちの生活が楽しくなるのが楽しみだ。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia PC USER 編集部/掲載内容有効期限:2024年6月23日