「これでいい」より、「これがいい」――NECデザインの意気込み:青山祐介のデザインなしでは語れない(2/2 ページ)
語られるようでいて実は語られていない、PC・周辺機器のデザインにフォーカスした本連載。PCメーカー編の第3回はNECの「LaVie C/Lシリーズ」だ。
量産あってのデザイン、量産性がなくなってしまっては意味がない
――色にはかなり制約があるのでしょうか? 素人目には“色”に好みはあっても技術的に制限があるようには思えませんが。
辻 最終的にはコストですね。仮に100個作って1個うまくできればいいや、というのであれば、製品の値段にダイレクトに影響してしまいます。それだと、店頭で売るものとしては採算がとれず、折り合いのようなものを見つけていく作業がすごく大変なんですよ。
山口 色だけであれば、デザイナーが単純に決めればいいじゃないか、いい色を出せばいいじゃないかと思われますよね。しかし、一点ものの場合とは異なり、色の再現性や量産したときに安定するか、といったことも考えなければいけません。また、塗料自体の性能として、傷つきやすい、塗りにくい、変色しやすいものといった要素もあります。ただし、そう言う塗料の中にいい色が出せるものがあったりして、それを使って思い通りの色が出せないかと思うんですね。
山口 NECの場合やはり品質には非常に厳しいです。品質へのこだわりというのはすごく持っていますから、そこを崩してしまうと、NECのPCとして適していないと思います。デザイナーもその中で考えていくわけです。また、デザイナーはいろいろな新しい色を知っています。携帯電話やAV機器に使われている色も知っているだけに、この色がなぜPCに採用できないんだと悔しがっている姿を見ることがあります。しかしそれは量産あってのデザインであり、量産性がなくなってしまっては意味がないのです。
直線をできるだけ使わない、ということが頭にあった
辻氏によると、デザインプロセスで大まかなフォルムは当初からそんなに変わらなかったという。初めはキーボードの左右に配置されていたボタンや、キーボード奥に配置する予定だったスピーカーが、生産性の関係で位置を変えた程度の変更はあるにせよ、車のインパネをイメージしたというフォルムは、当初のデザインモックアップと製品とで共通している。デザインをしていく過程で、ユーザービリティーを向上させるために、フロント面にあるLEDランプを斜めに配置したり、スピーカーをユーザーの方向に向けたりといった、改良が加えられていった。
辻 車の内装のようなイメージを最初から持っていました。車を運転することとPCを操作することが直結するかどうかはわかりませんが、同じ手で触る部分であったり、見なければならないものがそこにあったりして、それをどうやってユーザーに見せるかという点で似ている部分があると思いました。そこで、インパネやハンドルに付いたシボといったものをイメージして、使いやすさを車のイメージを使って形に表しています。
――スピーカーが前面にあるので正面から見ると車のフロントマスクにも見えなくありませんが?
辻 開いたときが車の内装だったら、閉じたら車のボンネットだろうという感じの発想ですね。フロントグリルのイメージは持っていました。形は変わってしまいましたが、デザイン当初はスピーカーが一段奥に入っていて、そこに車のフロントフェイスのようなイメージを意識していました。ただ、あくまでも車をモチーフにしてはいますがあくまでもPCなので、別に具体的にどこかをまねているのではなくて、違う解釈で使いやすさや見やすさ対してアプローチできたら、ということで取り組んだデザインです。
――現在、プロダクトデザインではスクエアなものが流行っているようですが、あえてアールを付けたのはなぜでしょう。
辻 PCのことをよく知っているかたですと、店頭で四角いものがいっぱい並んでいてもその違いがわかると思いますが、初心者にはその違いがまったくわかりません。同じNECのノートPCが並んでいても、そのバリエーションをいちばん見せやすい方法として、わかってもらいやすい方法として、直線をできるだけ使わないということが頭にありました。
辻 また、今回の商品構成から最上位のCシリーズもカバーするため、いろいろな機能が付いていたり、高級な仕上げをしていたりするフラッグシップの“登場感”といいますか、お客さんが見てすごいな、とびっくりするようなインパクトをデザインで与えなければならないというのもありましたね。もっとも、バリューゾーンのLaVie L アドバンストタイプとしても売るので、あまりやりすぎないところで……やりすぎたかもしれませんが(笑)、デザインの最初から最後まで、そういうことは頭にありました。それは色を決める時点でもありましたよ。
――LaVieのデザインに「N」「E」「C」の要素はどのように反映されていますか?
辻 LaVieの場合、VALUESTAR Sとは違って設置場所を選ばないノートPCですので空間よりも人との調和という意味で、LEDランプやスピーカーがユーザーのほうを向いているというところがニュートラルになりますね。エッセンシャルという意味では、人が触るべきところに必要なテクスチャーが付いていることで表現してあります。またクリエイティブは、形や色といった純粋なデザインで自分としては表現できていると思います。
「これでいいや」より「これがいい」で買って欲しい
最後に今回のインタビューに答えていただいた3人のデザイナーに、NECのPCに対する思いを語ってもらった。
鳴澤 デザインをしていく過程で、実機になってくると何かと制約も多いのですが、なるべく高級感と言いますか、“ユーザーが欲しくなるような”ということを意識しながらデザインしています。PCは普通の人の感覚ではかなり高い買い物になりますから、期待を裏切らないように、というのは大事ですね。せっかく高いお金を出して買ったのに期待を裏切るようなことをしてはいけない、というのは常に頭にあります。これは自分で買うとしたらどうか、ということはいつも考えていて、“ま、いっか”ということはしないようにしていますね。
辻 NECのPCを選んでいただくかたは、NECというブランドに対しての安心感で購入されていると思っていて、それは裏切れませんね。やはり使い勝手といったことを意識しますし、PCを買いに来て迷って買っていただく“これでいいや”というより、“これがいい”と思って買っていただくかたを増やしていきたいですね。NECにとってそういうユーザーがどんどん増えていって欲しいと思っています。
山口 PCは身近なものになっていますから、それを買うときにNECの製品をデザインで選んでもらうように、そういうレベルに持っていきたいと思っています。やはり中身が大事で、パッと見だけではなくて、本当に長く使ったときにお客さんを後悔させないように作っています。NECのPCは、技術者と一緒に開発するとそういうところが見えてくるんです。手前味噌ながらクオリティや技術者の思い入れはすごいな、と思うんです。より頑丈に作るとか、よりセーフティにとか。それはデザイナーにとってチャレンジしがいのあるハードルになることもあるのですが、ユーザーをがっかりさせてはいけないと思って、デザイナーもよりNECらしいデザインを表現できるようにがんばっています。
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