アキバが世界の“聖地”になる日――観光都市として見る秋葉原:5年後の秋葉原を歩く 第9回(3/3 ページ)
日本にいると気づきにくいが、アキバは世界有数の電気&サブカル街として、海外での評価が高い。今回は観光地としてのアキバの将来像を探っていく。
駐車場とホテルが足りない!
――アキバは変化が激しい街だとよく言われますが、最近の駅前再開発にともなって、オフィスビルがたくさん建つようになりました。このため、数年後には、単なるビジネス街になってしまうのではないかという声もあります。そういう懸念はありますか?
田所氏 UDXを中心とした再開発エリアもアキバの1つの新しい顔として魅力はあると思います。しかし、アキバ全域がこうなってしまうと人はあまり来てくれなくなるでしょう。駅前の部品街や、ラジオ会館を中心とした、戦後のアキバの息吹を残す“ゴチャゴチャエリア”が街全体の魅力につながっていますから、駅前や中央通り、PCパーツ密集地などの雑多な感じがなくなると、まったく面白みのない街になってしまう。
もし、そういう街のよさを消すような再開発が持ち上がったら、地元の方々には秋葉原の街並みを保全するよう、がんばっていただきたいと思います。
――その“ゴチャゴチャエリア”は、いま、どちらかというと向かい風ですよね。行政は大きなハコを作って区画整理をしていきたい。宝田無線の立場から見て、そういう街の流れは感じていますか?
宝田氏 ウチはPCパーツ街にあるので、その辺りを取り壊すとなると(行政の)反対に回ると思います。ただ、街全体では整備すべきところも確かにあります。具体的には、宿泊施設が不足していることと、飲食店が少ないこと。それに国際観光地としてみた場合、外国人に不親切な部分はまだまだ多いのが現状です。HISが今年の4月から8月まで、成田と秋葉原をつなげるバスを運行していましたが、秋葉原に宿泊施設がないために乗る人が少なく、中止になってしまいました。
田所氏 基本インフラとしては、一番必要なのは駐車場ですね。中央通りでとりあえずバスを停めてお客さんを下ろすことはできるけど、長時間駐車は出来ないので、バスを移動させなければなりません。
――TSUKUMO eX.とドン・キホーテの間に停めているのをよく見かけますね。
田所氏 駐車は禁止されているので長時間停めることはできないのです。あと、外国人の利便性を考慮すると、窓口的な案内所もない。いわゆるインフォメーションセンターですね。海外でも、観光地の多くは駅にインフォメーションセンターがあって、とりあえずそこに行けばいろいろな言語で案内を読むことができます。宿の手配をお願いできるような総合案内所が日本には少なく、秋葉原にも残念ながらありません。
――UDXの中には一応ありますが……。
宝田氏 確かにあることはあるのですが、現在はグッズ販売や写真の展示コーナーとなってしまっています。一応PCと地図は置いてありますが、ほとんど訪れている人がいない状況ですよね。
――ハコはあるけど、生かしきれていない。
宝田氏 ええ。
――そういうのは、秋葉原TMOが提案していかないと、上手く運用できないものなのでしょうか。
田所氏 そうですね。今年、「秋葉原観光推進協会NPO」が正式に発足したので、そういう意味ではNPOを中心に、行政や電気街振興会、秋葉原TMOなどと協力して、観光地としての整備を進めていくことになると思います。
5年後は外国人観光客の10人に1人がアキバへ
――最後に2012年のアキバ像を教えてください。
宝田氏 観光地化は進んでいると思います。インフォメーションセンターが機能して、宿泊施設ももっと充実しているでしょう。
田所氏 我々の推計値では、秋葉原だけの外国人来訪者は2006年で約56万人くらいです。いまから5年後にはまず間違いなく倍増されて、120万人に達していると思います。多分、日本に来る外国人総数は1200万人くらいになっているので、そのうち10人に1人はアキバに足を運ぶ時代になっているでしょう。そのファーストコンタクトの部分を秋葉原観光推進協会が先導して、インフォメーションセンターで情報を提供していくという形になっているといいですね。
メイド喫茶に加えて、新しいアキバ特有のエンターテインメントも誕生して、国外だけでなく日本各地からも人を集めるエリアになっていると思います。テーマパークとしての価値観がアップしているでしょうね。
――オフィス街的な機能も両立している感じでしょうか。
田所氏 そうですね。新旧、整然と雑多が両立するからこそ、アキバの魅力があるのです。“ゴチャゴチャエリア”が残って両立している。耐震構造の問題など、不安はありますが、そういう問題もクリアして、5年後も間違いなく、秋葉原は輝いていると思います。
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